さて、ここ数ヶ月しばらく工事で休館していた岡本太郎美術館、やっと復活した後の企画展第1弾は毎年恒例の太郎賞展(岡本太郎現代芸術賞展)だ。ということで、1歳の時かから毎年このイベントに連れていっているうちの少年と2人で、初日の2月18日に行ってきた。
例年と同様、賞のランクには関係なく、自分が気になったものを中心にレポートしていこうと思うんだけれども、去年まではあった「岡本太郎賞」と「岡本敏子賞」がないなあ…、と思ったら今回は入賞作がなかったということのようだな。ということで今回は「特別賞」と「入選作」というシンプルな2本立て。
- Hexagon artist®︎「宇宙儀式」
- 足立篤史「OHKA」
- 西 除闇「MANgaDARA」
- 関本幸治「1980年のアイドルのノーバン始球式」
- レモコ-レイコ「君の待つところへ」
- 大洲大作「Loop Line」
- 空箱二郎「アドレナリン症候群」
- 柴田英昭「コラージュ川柳」
- 会期等の情報
ちなみに上位2賞がないから今年はつまらないのかというとそんなことは全然なく、むしろ自分にとっては過去数年の中で一番面白かった太郎賞展だったと思う。
ではそれぞれの作品紹介いってみようか(全作品ではなく、自分が特に気に入った作品を紹介するだけなので、現物を見るという意味でもぜひ現地に足を運ぶことをお勧めしたい)。
Hexagon artist®︎「宇宙儀式」
今回自分が一番気に入った作品はこれだ。Hexagon artist®︎「宇宙儀式」。
どうやら六角形が大好き系なアーティストさんのようだけれども、今回のこの作品は鏡がとても効果的に使われていて、たとえばこのカラスは右半分だけ存在していて左半分は鏡像だ。
謎の人物が覗き込む本は合わせ鏡になっている。
左側の六角形と人物は右側だけが実像で左側は鏡像、右側の六角形と人物は左側だけが実像で左側は鏡像。そしてこの2つの鏡像の鏡像を合わせて、奥にもう一つの六角形と人物が合成されている。素晴らしい。つまり、1つ分の六角形と人物から、3つの六角形と人物が合成されているのだ。わかりにくい! 三角形の鳥居みたいなものも、実像は手前の柱の部分1つだけである。
箱の外からは「善」に見えているが、中身は「悪」のキューブ。
下を覗き込むと、こちらも何重にも鏡に反射して地下の部分に空間が広がってそこにも謎の六角形があるように見える。いやー面白い。
公式サイトもなんか凝ってるぞ。
足立篤史「OHKA」
会場を入ったところに一番目立つところにあるのは、特別賞の足立篤史「OHKA」。タイトル通り、モデルは「桜花」である。
全体的にフワッとした質感がある(特に翼)だが、これは新聞紙でできた機体を送風機で膨らませているためてある。
新聞に使われているのは昭和19年〜20年発行の日本の新聞紙。どうやらコピーではなく本物らしい。
エンジンのところに入っているのは…煉炭?
西 除闇「MANgaDARA」
おや、このインスタレーションの素材、「少年ジャンプ」のみじゃないか。という作品が、入選作の西 除闇「MANgaDARA」だ。漫画で作った曼荼羅だからMANgaDARAか。
しかし、このジャンプ、なんか貴重なものじゃないのか? 翼くんが若すぎないかこれ? えっ、シャカの息子だって???
うわああああ、これキン肉マンが連載開始した時のやつじゃん! まだ牛丼食ってるギャグ漫画だった時の。調べてみると1979年らしい。44年前か。
これは創刊8周年号だと? どうやら少年ジャンプの創刊は1968年らしいので、1976年だ。47年前だ。周りのジャンプも、リングにかけろ、ドーベルマン刑事…。松本零士先生がジャンプに書いてたことなんてあったっけ? と思ったら1969年頃に「光速エスパー」を連載していて、その後も何度も短編を掲載していたりしたんだな。知らなかった、というか忘れてた。(2023年2月20日追記:まさかこれを書いた翌日に、松本零士先生の訃報に接するとは…子供の頃から本当にありがとうございました)
とか、大声出していたわけではないがうちの少年にこのジャンプがいかに貴重なものかを語っていたら、美術館の方が「えっそうなんですか?」と話しかけてきてくださったので「いやこれマジすごいっす」とか答えた気がする。
仏様?になっているジャンプは流石にそこまで古くない模様(流石に40年オーバーのジャンプでここまで状態がいいのは貴重なので削るのはちょっとね)。これは2009年だ。まあそれでも14年前だけどな。
ということで色々な意味で崇拝対象として然るべき作品だ。
関本幸治「1980年のアイドルのノーバン始球式」
おいタイトルに定番の空目見出しを持ってくるのはやめろ(笑)、とか思ってしまう特別賞の関本幸治「1980年のアイドルのノーバン始球式」。どうやら、この奥にある写真(La Petite Mort, 小さな死)1枚を撮るために作成されたインスタレーションらしい。
そもそも「La Petite Mort」ってのは、どうやら「『短時間の意識の喪失や弱まり』を意味する表現で、現代では特に『死に例えられるようなオーガズム後の感覚』を指す」(La petite mort - Wikipedia)らしいぞ。うーむ。
この撮影セットのようなインスタレーションの裏側に回るとこんな感じ。これが意図された構図に近いのだろう。
なんかこの腕時計とかお盆とか本とか、細かい部分が妙に気になる。あと絶妙な不安定感。面白い。
ちなみに窓の外の風景はこんな感じになっているぞ。
レモコ-レイコ「君の待つところへ」
このなんか不思議な5m四方のイラスト空間が、特別賞のレモコ-レイコ「君の待つところへ」。ちなみにうちの少年は今回はこの作品が一番気に入ったらしい。
この空間の中に入って色々な部分をじーっと眺めていた。何かグッとくるものがあったようだ。
なんか、こういう見ているだけで明るくなってくる絵っていいよね。そうかこういうのが最近は好きなんだな。
[https://www.instagram.com/lemoco.layco/:title=lemoco-layco [レモコ-レイコ] on Instagram]
大洲大作「Loop Line」
この一見謎のインスタレーションは入選作の大洲大作「Loop Line」。これもかなり面白かった。
中央に完全にループした形の山手線の鉄道模型が回り続けているが、これをライトで照らしたり小型カメラで撮影したりしている。
上のカメラは多分この横からの山手線を撮影し続けており、目立つ位置に投影され続ける。
この斜めからのアングルは、ピントの厳しさもあって立体感を感じさせる、ちょっと幻想的な風景。
もう一つの壁には直接電車の影が写っている。
さらに前面の透過スクリーン的に配置された布のところには、もう今の人は知らない気がするスライドプロジェクターで体温計が映し出されている。そういえばこれもループだ(スライドのスロット)。今は本当に見ないよなースライドプロジェクター。
空箱二郎「アドレナリン症候群」
こちらの入選作、空箱二郎「アドレナリン症候群」。パッとみた感じバスケットボールの試合風景が描かれている絵、なんだけれども…。
近寄ると…。
皮細工なのだ!
このスコアボードも皮細工!
作者の方は以前プロサッカープレーヤーだったとのこと。こういう皮細工スタイルの作家さんというわけではなく、色々と思いついたことをガンガンやってみる、という感じの方のよう。公式サイトやSNSの類は見つからなかったので、個展の自己紹介ビデオがYoutubeにあったので紹介しておこう。
柴田英昭「コラージュ川柳」
なんかA4の紙に新聞紙の切り抜きを昭和ドラマの脅迫文のように連ねた(いやあれば一文字ずつだからちょっと違うか)川柳を綴り、壁面に貼り付けている入選作、柴田英昭「コラージュ川柳」。
ちなみに横ではさらにリアルタイムで制作が続いている。
わけがわからないよ(笑)。でもまあ、5→7→5の3つの句を、そのまま印刷物から切り出して貼るというルールがあるのだな。
うちの少年にもかなり受けていた。面白い。
Twitterにはこの「コラージュ川柳」専用アカウントがあり、定期的に作品を発表されている模様。
会期等の情報
ということで、会期は2月18日(土)から4月16日(日)。会場は川崎市岡本太郎美術館(最寄駅は小田急・向ヶ丘遊園駅)。表参道の岡本太郎記念館とは違うのでお間違えなく。2回以上行くなら年間パスポートがお得。多分自分は会期中にあと何回か行くと思う。