xckb的雑記帳

15年ほどWeb日記をつけ続けていたのですが2012年で一旦休止、1年半ほど休んで新天地でぼちぼちのんびりまた始めてみることにしました。

篠田節子「弥勒」がいつの間にか念願の復刊をしていたぞ!

私事だけれども、実は先日1週間強ほど病院に入院していたのだ。今回の入院に関しては色々と考えるところがあるため、多分後日別途記事にまとめるつもりではあるのだけれども、それはともかく入院とかしているとやっぱり暇だったりするわけで、配信でアニメやら洋ドラやらを集中視聴したり、電子書籍の積読を処理したり、果てはやることがなくなって結局仕事をしていたりする。

そんな中で、以前こちらのブログで書いたとおり、いつか復刊しないかなぁ的な希望を持っていたいくつかの作品を、暇に任せてAmazonで検索してみていたのだが…。

xckb.hatenablog.com

すると、以前から復刊を待ち望んでいた作品の1つが、気がつかないうちに昨年夏に復刊していたことを発見してしまった! しかも以前から、紙の書籍で復刊できないならせめて電子書籍限定でもいいから復刊すればいいのに、とか思っていたところに、復刊ついでにKindleでも読めるようになっていたりすることを発見。素晴らしい。

その作品は、篠田節子「弥勒」だ。

弥勒 (集英社文庫)

弥勒 (集英社文庫)

  • 作者:篠田 節子
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2019/08/21
  • メディア: 文庫

ということで、退院して家に帰れば旧版の文庫があるにもかかわらず、Kindle版を購入して病院のベッドで早速読破(しつこいようだけれども暇だし)。

っていうか、よくみると旧版は講談社文庫だったのだけれども、新版は集英社文庫じゃないか! もしかして作者の意図と関係なく絶版で放置したせいか何かで、版権引きあげかなんかにあったのか講談社?

そもそも、この邪推が事実であるかどうかに関係なく、これだけの傑作をどうして絶版にした上に電子書籍化もせずに、何年間も放置したんだよ講談社、ということで個人的に非常に許せないものがあるぞ。

…ということで、久しぶりにこちらの作品を読んでみたのだけれども、やっぱり素晴らしいよこれは。1998年の作品なので、まだわずかにバブルの残り香があった雰囲気の日本からストーリーは始まるので、今の若い人には今ひとつピンとこない日本の描写があるかもしれないけれども、主な舞台はチベットを思わせるインド・中国間の架空の小国なので全然関係ない!

それほどネタバレにならない程度の序盤ストーリー概要としては、こんな感じかな。素晴らしい仏教美術を持つヒマラヤの小国・パスキムの美術や文化に大きな関心を持っていた新聞社の文芸系の社員が、パスキムでいつの間にか政変が起こり、国外不出のはずの美術品が毀損・流出しているらしいということを偶然知る。

だが所詮は小国の騒乱、それほどの国際的なニュースバリューもなく、何が起こっているのかはマスコミ経由では全くわからない。そこで彼は自身のインド出張にかこつけて、不法入国で鎖国状態のパスキム入りを試みるが、政変に巻き込まれ戻れなくなる…。ということから物語は始まる。

パスキムの文化はチベットを一部モデルにしていると思われるが、そこで発生する政変はカンボジアのクメール・ルージュを一部モデルにしていると思われる(中国の大躍進政策も少し入っているかな)。つまり、この作品はいわばチベットでクメール・ルージュ的な革命が発生するなか、最初は良い意味で普通の平和ボケだった日本人がそこに強引に巻き込まれていくという構成になっている。

クメール・ルージュに関しては、当時「まさかそこまで酷いことが行われているとは誰も信じてくれなかったけれども本当だった」らしいが、この物語ではまさにその通りの地獄が展開する。都市文化の否定、極端な反知性主義、家族の解体、子供の「活用」などを通じて、次から次へと人が死んでいく。

だが、単に悲惨さを描くというだけではなく、強制集団結婚で結ばれる「妻」や、登場場面は少ないが魅力的に描写される革命家(明らかにポル・ポトがモデルと思われる)との物語が、この作品を自分がとても気に入っているポイントだと思う。どんどん周囲の人々が死んでいく中での運命共同体としてのかりそめの「家族」とそこに生まれる愛、そして革命家の美しい理想とそれが生み出していくおびただしい死の連鎖という現実が、実にきつい筆致で描かれる。

主人公が、かつて自分が体験した素晴らしいパスキムの文化との交流の中で、心のなかで何かが引っかかりつつも目をつぶっていた部分が、革命に巻き込まれることでもう一つの視点からの姿として見えてくるところも実に良い。

そしてタイトルにもなっている「弥勒」だ。これだけはもう読んでもらう他ないな。

ともかく超久しぶりに、しかも何周目かを読んだにもかかわらず、やはり圧巻の作品だった。篠田節子の作品ではやっぱり俺はこれが一番好きだぞ。

ということで、せっかく待望の復刊をしたのだから、講談社の旧版を古本で入手するのではなく、集英社の新版を読んでほしいな! 集英社さん本当にありがとう!!

ちなみにこちらがKindle版だ。

弥勒 (集英社文庫)

弥勒 (集英社文庫)

  • 作者:篠田節子
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2019/10/04
  • メディア: Kindle版