xckb的雑記帳

15年ほどWeb日記をつけ続けていたのですが2012年で一旦休止、1年半ほど休んで新天地でぼちぼちのんびりまた始めてみることにしました。

東京クロノス:VRの世界に見事に再構成された「日本のビジュアルノベル」

(一応、常識的に派手なネタバレはしないように気をつけて書くけれども、あらゆる情報を知るのが嫌な人にはとりあえず要約を一言だけで書くので、そのままお帰りください。一言「東京クロノスはいいぞ」



さて、前にも書いた通り3月ごろからOculus Questを使っているのだが、Quest購入当初から気になっていたもののなかなかやっていなかったゲーム「東京クロノス」を5月半ばを過ぎてからやっとプレイしてみることにしたのだった。

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出典:https://www.oculus.com/experiences/quest/2812851825399383/

まあ、気になっていたのになんで2ヶ月以上も放置していたかと言えば、なんかこの実に日本のアニメっぽい絵柄と面白いVRゲームというものがなかなかイメージとして結びつかなかったんだよね。だから、いくらレビューがかなり好評っぽくても(しかも英語でのレビューもかなり好評のものが多い)、半信半疑で放置してしまったんだな。周りのゲームよりもちょいと高価だし(3,990円)。

ということで、全くどんなゲームであるかという知識もない状態で、まあいわゆる0話切りよりも酷い感じで放置していたんだけれどもね。でもまあ、あんまり放置しておくとそれはそれで気になってくるので、COVID-19関連自粛で家にこもっている間に遊んでみようと思って購入してみたのだけど、さらに数日放置した後にやっとプレイしはじめてみたという始末……。



そんな俺のファーストインプレッションだけれども……これは素晴らしいゲームだよ!
「0話切り的に放置していて本当にごめんなさい!」と俺は心の中でジャンピング土下座した。



いや、実際のところ、事前にいくつかスクリーンショットとかは見ていたんだよ。こんな感じの。

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出典:「東京クロノス」Oculus Quest版

でも、これを見ても正直、何が面白いか全く伝わってこないんだよね。

PVはこんな感じ。やっぱりこれ単体で見てもなんかほとんど普通のアニメのPVっぽくって今ひとつこのゲームの魅力はよくわからない、という印象に尽きる。むしろ2次元にキャプチャされることで、2次元に最適化された普通のアニメのシーンより、ほんの少し出てくるVRのシーンの方がそこはかとなくショボく見えてしまっている感もある。

しかし実際にプレイしてみるとすぐに理解した。これはいわゆる日本風のビジュアルノベルと呼ばれるゲームジャンルを、見事にVRの世界に拡張したものなのだ。

主人公の心情や状況説明、そして画面にたたずむキャラクターのセリフが、その都度字幕で表示される。その末尾に次に進むための印がついていて、何かボタンを押すと先に進む。ストーリーの中で、何らかの選択肢が与えられ、選択の結果で枝に分岐する。なんなら1周終了したらもう一度プレイすると違った展開が待っていたりする。もちろんトゥルーエンドはその先にある。

そういう基本的なお約束文法をきちんと維持した上で、VRならではのビジュアルノベルのあり方というものをしっかりと検討して作り上げられた力作がこの「東京クロノス」だと思う。

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出典:「東京クロノス」Oculus Quest版

たとえばOP曲は藍井エイルだったりED曲がASCAだったり、これだけの情報だと、なんか普通にちょっと気合入れた日本の大手ビジュアルノベル的な感じではあるのだけれども、このOPアニメがただのOPアニメではない。本当に凄いんだ。

RUST / 雲雀 / 光芒 (初回生産限定盤) (DVD付) (特典なし)

RUST / 雲雀 / 光芒 (初回生産限定盤) (DVD付) (特典なし)

  • アーティスト:ASCA
  • 発売日: 2019/09/04
  • メディア: CD

今までの普通のPCなりスマホなりのビジュアルノベル的な世界から、このゲームによってVRの空間に次元拡張され、自然な形で接続するんだという、おそらくそういう意図を持ったと思われるOPの演出が実に凄い。

こればかりはVRで実際に見てもらわないと始まらないので、体験版でもいいから是非見て欲しい(俺はいきなり完全版を買ったので体験版は見ていないけれども、多分体験版にもOPアニメとかは入ってるよね?)。

ストーリーのさわりを軽く紹介するとこんな感じかな。

幼なじみの高校生8人組が、無人の渋谷で突然目覚める。どうやって渋谷にきたのかなどの記憶は何もないが、どうやら8人のうちの誰かが殺人を犯しており、その犯人を探し出さないとこの世界を脱出することはできない、ということがわかってくる。そして渋谷の街は天にも届くような鏡の壁で囲まれており、どうやっても破壊できない。

さらに、彼らからは多くの記憶が消されているようで、誰が殺人犯かという事実どころか、一体どこの誰が殺されたのか、という点さえ、誰も覚えていないようだ。彼らは果たして謎を解き、渋谷を脱出することができるのか?

本当に今のVRでそんなゲーム作れるの? いくら壁があるとは言え渋谷の街どうすんの? とか思うじゃないか。本当に実装したらショボくなるんじゃないの、とか。しかしこのゲームはあくまで「ビジュアルノベルであり続ける」ことによりその問題を解決している。

つまり、たしかにガワはVRゲームではあるが、別に渋谷の街を自由に動き回れるわけではない。Oculus Questの場合は、静止モードの範囲内のみ、歩いたり首を動かしたりして視線の位置や方向を変えることはできるが、その範囲を越えることは全くできない。さらに、キャラとの距離が近い一部シーンでは、首を上下左右に振る範囲でしか視線を動かすことができない。そして、スクランブル交差点以外の舞台は、さほど多くはない背景モデルを使い回しているだけだ。

「東京クロノス」は、そのあたり清々しいほどにビジュアルノベルであり続けているが、一方でたとえばこの物語冒頭の、スクランブル交差点の電光掲示板に「私は死んだ、犯人は誰?」という文字が浮かぶシーンでは、仲間の視線を追ってVRで上を見上げることで、ストーリー上重要な情報を知ることができる。このように「VRだからこそ実現できる」ような場面が所々に含まれている。

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出典:「東京クロノス」Oculus Quest版

また、この「鏡の壁」のシーンのように、VRによる立体感と奥行きは、何とも言えないこのゲームの空気感を醸し出している。このゲームにおいて「自分の姿を写す装置」として重要な「鏡」の中には、もちろん自分自身も写っている。そして、3Dの実在感のあるキャラに控えめな動きがつくことで、思った以上に物語世界に没入できるのだ。

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出典:「東京クロノス」Oculus Quest版

全般的に昼のシーンは曇り空で統一されているのだが、その中で時々挟まれる夕焼けの景色や、雲越しの月の美しい夜の景色は実に美しい。とはいえ、この夕焼けのシーンは、東から光が当たっているのでどちらかというと朝焼けっぽいんだけどね。

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出典:「東京クロノス」Oculus Quest版

夜のシーンだと特に、登場人物以外誰も人がおらず、街の電気もついていない渋谷のスクランブル交差点で、月夜の空に唯一電光掲示板のメッセージが浮かんでいるこのシーンのコントラスト感とか、無茶苦茶好きだ。つい必要もないのに眺め回してしまう。

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出典:「東京クロノス」Oculus Quest版

また、パーソナルスペースの狭いキャラクターがグイグイ距離を詰めてくる効果のインパクトは実にVRならではだ。特にこのピンクの子は台詞の字幕が表示される位置より手前に詰めてくることがある。

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出典:「東京クロノス」Oculus Quest版

そんなシーンで下を向くと、何となくその距離感を実感できるだけではなく、自分のキャラの体まで見えてくるのだ。で、これくらい言っても大したネタバレにはならんだろうから言うけど、ストーリー中で女性キャラの視点になるシーンもあるので、そんなシチュエーションではちょっとしたバ美肉気分を味わえるぞ(不謹慎)。

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出典:「東京クロノス」Oculus Quest版

それにしてもよく見ると結構スタッフも豪華なのだな。たとえば監督の柏倉晴樹は「楽園追放」のモーション監督だったのか。なるほどVRに日本風アニメキャラを突っ込むにあたっての見せ方などは、日本の3Dアニメの技法を豪勢に使っているように見える。

先ほど触れたように、視線を動かせる範囲を通常は静止モード範囲内、キャラクターと接近する場合は全く動けない(つまり後者の場合、許される視線の範囲はわずかに両眼の幅だけだ)など、一定の限定を加えることで、日本風のアニメキャラのようにきちんと見えるVR世界を作っているのだろう。

(とは言え、通常シーンでは多少は視線を移動できるため、こんな感じで立体視できるキャプチャを撮ることは可能だ)

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出典:「東京クロノス」Oculus Quest版

そもそも、誰もいない街において、限られた人数のキャラクターで展開される物語にしたのは、今のVRデバイスの性能や機能の制約からくるものだろう(それを言うなら、現在の普通のビジュアルノベルのスタイルも、昔のPCの能力とのせめぎ合いで作られてきたもののようにも思う)。

しかし過去の回想シーンでは、登場キャラクターが増え、場面も様々な場所になるため、同じVRのクオリティで作ることが難しい。ということで、回想シーンは「人形劇」を回想する主体のキャラクターが観客として眺めるというスタイルになったのも仕方ないだろう(ちょっと人形劇のシーンの時間は長いんだけれどもね)。副産物として、回想シーンであることがある意味わかりやすくなっているしね。色々苦労している。

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出典:「東京クロノス」Oculus Quest版

渋谷の外に出ようとすると鏡の壁がある。鏡はすなわち自分の姿を自分で見るための道具。鏡は自らの姿を見ろと示唆し続ける。そしてかつての自分たちの姿を人形劇を通じて見つめ直すことで、失われた記憶の本当の事実、そしてなぜその記憶は失われる必要があったのかが見えてくる。それが「東京クロノス」だ。

ゲームとしての難易度は全く難しくない。おそらくこのゲームはクリアするのが難しいビジュアルノベルを作ることではなく、VRで多くの人が楽しめる新しいスタイルのビジュアルノベルを作ることに注力しているのだろう。クリアするまでの時間は15時間以上とか言われているようだが、極端に長すぎることもなく、また物足りないなんてこともなく、良いバランスだと思う。

まあ、その時間だけ決して軽くはないOculus Questを頭にかぶる必要があるということは加味しなければならないわけだが、ゲームのスタイルから、そもそもプレイヤーは物理的に移動する必要もなく、座ったままのんびりとプレイできるという点はとても怠惰で良い。

Beat Saberを15時間以上プレイしろと言われたらちょっと考えてしまうが、このゲームなら必要な労力はNetflixやプライムビデオアプリと大差なく(つまり無に等しい)、特に問題はない。VR環境を持っていてアニメ絵に抵抗のない向きには、ぜひ一度楽しんでみることをお勧めしたい。



ちょいと苦言としては、いくつか字幕とセリフが微妙にあっていない部分があるのはともかく、終盤でセリフと字幕が1つ丸々前後が入れ替わっているところがあった点かな。あと、終盤にはもう一点、ちょっとした小道具が場面転換で消えてしまったように見えた場所があったけれども、私の勘違いじゃなければ、どちらも重要な良いシーンだけに、直した方がいいと思う。



ちなみに、劇伴もとてもいいぞ。配信限定でApple Musicなどでも聴けるので、ぜひ全ルート最後までプレイした後に聞くことをお勧めする(盛り上がる場所でかかる劇伴はやっぱり、ゲーム内で初めて聴く方がいいだろ?)。あと、このアルバムにも入っているけれども、ウォルピスカーターの曲も素晴らしいな。

VRゲーム「東京クロノス」オリジナルサウンドトラック

VRゲーム「東京クロノス」オリジナルサウンドトラック

  • 発売日: 2019/12/17
  • メディア: MP3 ダウンロード

そしてノベライズ?と思ったら前日譚だったこちら。まだ読み始めたばかりだが「例の事件」の詳細がここで描かれる。初っ端から完全に本編のネタバレなので、絶対に全ルートクリアしてから読むべき。

渋谷隔絶 東京クロノス (講談社タイガ)

渋谷隔絶 東京クロノス (講談社タイガ)

  • 作者:小山恭平
  • 発売日: 2019/07/18
  • メディア: Kindle版

そして実はPSVR用の方が実売価格では安いようだ。微妙にこの特典の「録り下ろしドラマ音源『二階堂華怜と東国ユリア』 配信」ってのが気になるぞ。俺はPSVRどころかPS4も持ってないからそもそもお呼びじゃないんだけれども。

次回作はすでに制作が進んでいるらしいが、この「東京クロノス」の時代から数百年後を描くらしい「ALTDEUS: Beyond Chronos」。楽しみすぎる。

altdeus.com

しかしなぜWikipediaがないのだ東京クロノス…。


(2020年7月30日 追記)
アルトデウスBCのクラウドファンディング、参加しました。
xckb.hatenablog.com