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1月25日(土)、エレベーターや飛行機に乗った時のような耳の不快感が治らなくなったものの翌日日曜日に回復、しかし月曜日に症状は悪化したため翌日の火曜日に近所の耳鼻咽頭科を受診、突発性難聴の可能性ということで大きな病院に紹介してもらい、入院することになりました。とにかく時間との勝負なので、耳の異常を感じたら可能な限り早く耳鼻咽頭科を受診するべき、であるようです。そこからの続きです。
治療の内容
さて、入院した病院で、今回受けた治療はこんな感じです。
- ステロイドなどの点滴を受ける
- ビタミンB12、ATPなどの飲み薬を飲む
- 高気圧酸素治療
これらについて簡単に紹介しましょう。
ステロイドなどの点滴
ステロイドに関しては、序盤で一番大量に点滴し、それを徐々に減らしていく形が基本らしく、点滴は8日間続けました。お薬手帳を見るに、8日間でデキサートの量が4→4→4→3→3→2→2→2となっています。
ステロイドと聞けばなんか副作用って言葉が出てきそうな印象がありますが、実際のところ期間は短いのでいわゆる副作用に関してはそれほど問題になるものは出ないだろうということでした。が、一点だけ副作用が…不眠は辛かった!
いつも割とすっと眠れることでは定評のある自分だけれども、この入院中は本当に眠れなかった。以前別の病気で入院した時は爆睡していたし、今回は退院後も2日間くらいよく眠れなかったので、おそらくステロイドの副作用だと思います。毎日睡眠誘導剤をもらっていましたが、それでもひどい時は3時間くらいで起きてしまい、眠れなくなりました。
いや、入院じゃなくて通院治療もあるって聞いてはいたけれども、もし同じ量だとしたら、これだけステロイド入れたら普通の社会生活には問題が生じるよ。絶えず眠いし、なんか色々と判断が危うくなってる(通院の場合の投与量は違うのかもだけれども)。少なくとも絶対車の運転はしたくない。
ステロイド以外にもATPなども点滴で入れていたのですが、点滴自体の感触としては、むしろこっちの方が血管の痛みが強くて辛かったかな。
ビタミンB12、ATPなどの内服
飲み薬はビタミンB12とATP。まあ概ね飲み損ねることもなく順調でしたね。ちょっと飲み忘れて慌てることはあったけど。
あとは先ほども書いたけれどもとにかく寝る前に毎回睡眠導入剤を飲んでいました。確かに飲んだ直後は眠れるんだけれども、すぐ起きてしまうんだよね。で、ここで二度寝に失敗すると朝まで目が覚めてしまう。まあそんな時はもう諦めてKindleで本を読んだりNetflixやプライムビデオでアニメやら洋ドラやらを見てしまい、それにも飽きてくるとついに仕事をやり始めるという困った毎日。毎朝早朝にコーディングしていました。
そういえばこれも入院中に読んだんだった。オススメです。
ビタミンB12ってそういえばコバルトが入ってる珍しい栄養素だよね。なんか以前に調べて知ってた。末梢神経の障害には良いらしい。
高気圧酸素治療
この病院での突発性難聴に対する高気圧酸素治療は、2気圧の酸素100%の空気で約1時間呼吸して過ごすもの。血中酸素濃度を通常ではあり得ない濃度まで上げることで、ダメージを受けた神経系の改善を狙うものらしい。潜水病の治療に使うのは知ってたけど、こういう病気にも使うのね。他にも、一酸化炭素中毒や腸閉塞などにも使われるらしい。こちらの病院には1人用の機器が2台ありました。
1台は新型のやつで全部ガラス張り。でもガラス張りでカプセル全体を加圧するって結構ドキドキするのだな。加圧に従って多少軋む音が響くとちょっとドキドキする。潜水艦でガラス球形のコックピットに入っている人とか、度胸すごいな、とか思ってしまったわ。アニメ「ISLAND」に出てきたタイムマシンを連想してしまったので、勝手に「タイムマシンくん」と呼んでた。
出典:Medical Equipment | Medical Business | Business & Products | AIR WATER INC.
もう1台は旧型で金属製。いかにも潜水艦っぽい感じのボルトで止められた外が見える小さな窓があったりして、こっちの方が実に「加圧」っぽくってなんか逆に安心感がある。閉所恐怖症の人には評価が低そうだけれども。
その全体のいでたちから勝手に「スチームパンクくん」と呼んでいたけれども、アニメ「終末のイゼッタ」のイゼッタさんの気分にちょっとなれました。特に終わって大きなレバーを引いてロックを解除する時に「プシュー」といって最後の微妙な気圧調整があるところの雰囲気とか。
ということで全体的にはタイムマシンくんよりもスチームパンクくんの方が気に入っていたのですが、都合8回でタイムマシンくん3本、スチームパンクくん5本だったので良かったかな的な。一般的な人気としてはやはりタイムマシンくんの方が人気があるようで、どうしてもタイムマシンくんじゃないと嫌、的な人がいたようなので、自分のようなスチームパンクくんの方が好きな人は病院的にありがたかったのかな、とか?
酸素100%で2気圧ということで、火災を防ぐために色々と持ち込めないものがあります。特にカイロなどはまずいらしいですが(そりゃまあ、多分猛烈に発火するよね)、静電気関係で綿100%以外のものは着用できません(化学繊維を含むもの厳禁)。
これ、例えばシャツの袋に100%オーガニックコットンなどと書いてあっても、結構な量の化学繊維を含んだ上で、それ以外の綿の部分は100%オーガニックコットンだよ、というようなものがあったりするので要注意です。
時期的に、ヒートテックなど着たくなりますが、絶対ダメです(そもそも中は加圧していることもあってか、意外に暖かい)。
高圧酸素治療中は、CDを聞くことができるということで、家から持ってきてもらったCDがこちら(最近CDってあんまり買ってないし、閉所で聴くのでなんか癒されるものがいい)の、伊波緑「drive」。ちょうど2回聴き終わったところで治療が終わるという時間的な点でも良かったのですが、実に癒されました。沖縄の音楽に詳しい人しか知らないアーティストさんと思われますし、すでにこのCD自体入手困難と思われますが、朝オススメです。
そういえば高圧酸素治療以外にも、検査でMRIも受けました。「うるさい」という定評のあるMRIですが、片耳の難聴状態で受けるMRIはちょっと新鮮でした。神経系のチェックが目的だったようですが、そちらはきれいなものだったようです。
さらに重症の患者には鼓室ステロイド注入という治療も行っているようですが、私はそこまでのレベルではないということで対象にはならなかったようです。鼓膜の内側にステロイドを直接入れる療法のようですが、結構大変そうではあるので、正直、対象にならなくてよかったと思いました。が、対象になるくらいの状態だったら、なんでもいいから効果のあるらしいものは試して欲しいと思ったでしょうね。
まあこういう議論が可視化されているのもいいよね。
初っ端から「突発性難聴は治療法が確立していない」と断言されると、ああやっぱりそうなのね、と認識できてスッキリするわ。
片耳難聴だと何が起こるのか?
ということで、片耳難聴(低音部)だと何が起こるのか、それは予想とは違った体験でした。自分の体験から解説してみましょう。
たぶん、普通の人は片耳難聴とか聞くと、ああ片耳か、両耳じゃないなら大したことないんじゃないの、とか思うよね。特に自分の場合は大した耳鳴りとかあったわけじゃないから、耳鳴りないなら単に片方から声が聞き取りにくくなるだけだろうと。
眼なら片目を閉じることでシミュレーション可能だけれども、耳は耳栓などを使ったとしても、なかなか50dB以上も感度を下げることは難しいから、手軽にシミュレーションもできないということで、状況を想像できないのは無理もないと思う。
でも、人間は進化の過程で、伊達に両耳から音声情報を聞き取るように進化してきたわけじゃないんだよ。ちゃんとこのデザインには意味があるんだ。ということを思い知らされる毎日でした。
例えば前回の記事でも書きましたが、車のエンジンの音が2つに聞こえます。たぶん、車のエンジンの音は広い範囲の周波数に広がるノイズ的なものになっていると思います。その中に、健全に聞こえる範囲とほぼ聞こえない範囲が混ざっていて、それによって全体の位置感覚がぼやけ、さらに2箇所から音がしているように思えるのだと思います。はっきり言って、危ない。
目の前の人が話していることが聞き取りにくい、というのもたぶん同じシステムで起こるのでしょう。騒がしい中で目の前の人の話している内容を聴く時、周囲のノイズを切り捨てて、求める人の話し声だけを抽出していますが、これにおそらく両耳からの音量や位相差などを利用しているのだと思います。
自分の場合だと、低音が右耳から抜け落ちているので、母音の大部分が右耳から得られる音声情報から抜けます。それによって、母音の抜けた掴みどころのない音声情報が右耳から入ってくることとなり、音声がぼやけ、聞き取りにくくなるのではないでしょうか。
不思議なのは、たとえばNetflixやプライムビデオとかを見る時、ヘッドホンから聴く分には全然問題なかったんだけれども、テレビの音が右側にあるスピーカーから出ているととても気分が悪くて不愉快だったりしたこと。あとは、天吊りのエアコンからの音がどこから聞こえてくるか分からずに気持ち悪かったこと。そして、病室の窓から夜中に聞こえてくる、国道を通る車のエンジン音が不明瞭で不愉快だったこと。
多分この辺りには、聞こえにくくなっている音が単に小さく聴こえるということだけではなく、歪んで伝わっているということも原因の一つだったのではないかと思います。聴力検査をして気がつくのですが、右耳であまり聞こえなくなっている周波数である250Hz付近ですが、聴力検査で流れているはずの正弦波ではなく、何かノイズのような音として聞こえてくるのです。
まあ、これは広い意味での耳鳴りの一つなのかもしれませんが、入力情報がこれでは、音の方向などを知るための脳の仕組みが正しく機能するわけがありません。色々な音が凄まじく不快、という現象は入院中だけではなく、退院後もしばらく続きました。
片耳が聞こえないという状態、単に聴覚も視覚のアナロジーで、片耳が聞こえない→音の立体感が掴めない、と自分も勘違いしていましたが、失われるのは立体感ではなく、音の方向感覚と細かいディテールなのです。その意味では、あえて視覚で例えるのであれば、強い近視で細かい部分が見えなくなるのと、あり得ないくらい凄まじい乱視であらぬところに複数に物が見えるようになる、というイメージが近いような気がします。
入院後の経過
入院後何日かたって気がついたのですが、現在の耳の状態を知る方法として、自分で見つけた方法があります。健康な耳に掌を当てて前後に掌を動かしてみると、ゴソゴソゴソゴソと音がしますよね。これが右耳だと、カサカサカサカサ、と軽く聴こえるのです。低音部が抜けているんですね。
入院初日、2日め、4日目と聴力検査を行ったのですが、2日目はともかく前半が終わる4日目もあまり芳しくありません。診察では「数値は多少改善している」と言われるのですが、実際のところの感覚としては、特に改善されているという実感はありません。数値が多少改善したのは単に聴力検査に慣れただけかも知れませんし、先程の方法を試しても音はカサカサのままです。
さらに、4日目の結果では当初健康だった左耳が、低音部でギリギリ正常範囲内とはいえ結果が落ちていて、それなりに不安になってきたりしました。
まあ、とはいえなるようにしかならないさ、治らなかったら治らなかったで、悪化したら悪化したで、楽しく生きるしかないよな、的な発想で、治らなかった場合の色々な下調べをネットでしたりしていたのですが(どうせ不眠で暇だし)、そうすると漫画「聲の形」序盤の将也、本当に酷いことしていたんだなぁ、とあらためて実感を持って思ったりするのでした。
- 作者:大今 良時
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2013/11/15
- メディア: コミック
ああそう言えば大垣も行ったなぁ、懐かしい。
ということで、この辺りで次の記事に続きます。次の記事は入院後半についてです。