xckb的雑記帳

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これはまさに星見メガネ?「スーパーワイドビノ36」を買ってみた

先日「スーパーワイドビノ36」という双眼鏡を買ってみました。こちらは2倍54mm、実視野角36度というなかなかクレイジーなスペックの双眼鏡です。その割にはガリレオ式のためプリズムもなく薄型軽量で、低倍率のために子供でも楽々取り回しが可能です。まさに星見メガネ、というのがふさわしい感じの天文グッズです。まあ、本気で天文向けにきっちり作ったオペラグラス、という表現が適当かもしれません。

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実際に横浜市の自宅で覗いてみると、まあ日頃はかなりひどい星空なのですが、これを付けてみるとたとえばオリオン座の主要な星々(もちろん頭や棍棒や謎の毛皮の部分を含む)が全部すっきり見えるし、さらにこれらが超広視野のおかげでずっぽり全て入ってきたりします。オペラグラスで想像されるような周辺の像の劣化もほとんどなく、えっ、これガリレオ式なんだ! と改めて驚く感じです。これはすごい! ということで、単純にオススメという点で言えば超オススメだったりします。

とりあえずこのコロナ禍の中、なかなか星の綺麗な場所まで遠出も難しいものがあったりするため、かわさき宙と緑の科学館のプラネタリウムに行って、MEGASTAR-Ⅲ FUSIONをこの双眼鏡で試してみることにしました。このプラネタリウムはメガスターの性能を最高に味わうため、以前は双眼鏡を貸してくれていたのですが、コロナ禍でこの貸し出しもなくなってしまい、ちょっと残念に思っていたのですが…。

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この「スーパーワイドビノ36」、かつて貸し出しされていた双眼鏡よりもこのプラネタリウムに合っているかもしれません。

www.nature-kawasaki.jp

オリオン座はちょうど視野に入りきる感じですが、ややおとめ座には足りません。そのくらいの画角です。メガスターの星空、この双眼鏡を通すと、肉眼の数倍の量の星が見えてきます。それが高倍率の双眼鏡と異なり、星座全体を見つつ多くの星を見ることができます。星座の絵が投影されたら、それもまとめて見ることができるという…。低倍率パワーすごいな。

ガリレオ式の欠点と言われる周辺部の劣化もそれほど気になりません。というか、これがオペラグラスと同じ仕組みの光学系とはとても思えません。

一方で、よく双眼鏡のスペックで気にする方がいるだろう集光力とかは、特にこのモデルに関しては公開されていません。通常は双眼鏡の集光力は、

(口径mm / 倍率)2

で計算されます。たとえばよく天文用に利用される7x50ならば(50/7)2 ≒ 51ということになります。その公式にこの双眼鏡を当てはめると、2x54なので(54/2)2 ≒ 730ということになりますが、もちろんそんなことはありません。

双眼鏡には有効最低倍率というものがあり、それより倍率を下げても集光力が変わらなくなる限界が知られています。これは人間の瞳径 7mm を基準に定められており、

口径mm / 7mm

で求められます。つまり、7x50が天体に最適と言われているのは、この計算で50mm口径の最低倍率を計算すると、50/7 ≒ 7ということで、これよりも低倍率にしても集光力が変わらないということなのですね。だからそんなスペックの双眼鏡は普通売られていません。

ですが上で出した双眼鏡の多くの性能パラメータは、おそらくケプラー式の双眼鏡を前提としたもので、巨大オペラグラスであるガリレオ式のこの双眼鏡には成り立たないんじゃないかな、と思います。

直感的な話としてガリレオ式は接眼部分の凹レンズで対物側の凸レンズを直接見るような感じです。つまり、画質の点を脇に置いておけば、対物レンズの大きさが大きければ大きいほど、また接眼側の凹レンズが弱ければ弱いほど画角は大きくなります。おそらくその辺りのバランスを取ったのがこの2x54というスペックなのでしょう。

ガリレオ式双眼鏡のスペックについてなかなかよい資料が見つからなかったのですが、吉田正太郎「天体観測のしおり(9) 双眼鏡のえらび方と扱い方」(天文月報 1957年12月)に結構詳しい解説があったので、こちらを参照しつつ書いてみます。

ガリレオ式の長所はプリズムなどもない単純な構造で損失が少ないこともありますが、最大の長所は射出瞳径が大きいことにあると。この2x54の場合は54mmのレンズで受けた光を27mmの瞳径で出します。これは人間の実際の瞳の大きさの7〜7.5mmよりもはるかに大きく、溢れるほどになります。

ガリレオ式の実視野角は、以下のように元に近似的に求められます。

tan ω = d/2m(ma+i)

ω:視野角
d:対物レンズ直径
m:倍率
a:接眼レンズと眼球の回転中心との距離(30mm)
i:対物レンズと接眼レンズの距離

つまり対物レンズを大きく[O(d)]、倍率を小さく[O(1/m2)]、対物レンズと接眼レンズの距離を小さく[O(i)]することで視野角を広げることができるわけで、このやたらとでかいレンズにやたらと薄い設計は、まさに視野を広くする方向に全振りしている設計と言えるのでしょう。

ガリレオ式で集光力的なものにあたるスペックは、ただ倍率の2乗のみに依存しており、2倍の場合で4倍、3倍で9倍、4倍で16倍となります。倍率2倍という設定も、人間の目よりはだいぶいい星空を見える程度は光を集めたいが、やっぱり重要なのは視野の広さ、という潔さの見えるスペックです。2倍の場合は6等星が見える星空で実際に見えるのは7.5等星までとなり、7x50が理論上狙える10等星クラスには遠く及びません。

ですが実際のところ人間の目は7x50を完璧に生かすほど理想的な状況を作ることは難しいですが、このガリレオ式双眼鏡では星の数が数倍になった感覚からして、ほぼフルスペックの集光力を発揮していると言えるのではないでしょうか。

とりあえず、これは7x50などに代表される一般的な天文用双眼鏡と全く別の方向性を持った星空用の視力拡張メガネ、的なものだと思います。軽いので、子供でも楽々取りまわせるのもいいところではないでしょうか。お勧めです。

ところで先日の木星と土星の接近、綺麗でしたね。うちの少年とコルキットで、木星の縞模様や土星の輪がはっきり見えつつ、望遠鏡で一つの視野内に入りきる様子を家の前から観察できました。コルキットもお勧めです。

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