xckb的雑記帳

身の回りにあったことを雑多に語ります。

Mavic mini用に販売されているCPL(円偏光)フィルターに効果はあるのか

実は結構Mavic miniを海の上に飛ばしていることもあり、先日から「ドローン用に販売されているCPL(円偏光)フィルターに意味はあるか」という事が気になっていたのです…。円偏光フィルターを含む偏光フィルターは、水辺などで写真を撮るときに、水面の反射を抑える効果があり、また適切に利用することで青空に深みを与えることも可能とされているためです。

結論

が、結論を端的に要約すると…

ほとんど意味はない!

以上。

…というわけなのだけれども、まあ正確には2つの製品を試したが、どちらも製品としての意味があるとは思えなかった、というレポートです。

そもそもPLフィルターとは何か?

CPLフィルターは広くPLフィルターと呼ばれる物の一種で、写真用の偏光板です。偏光板を通すと、特定角度の方向の反射光を軽減することが可能なため、水面やガラスの反射を弱めることが可能となります。これによって、水中のものがより映りやすくなったりするわけです。

かつては、さまざまなフィルターが写真撮影の中で使われていましたが、色や明るさ、そしてフィルターで可能なほとんどの特殊効果などは、現在ではデジタルな後処理が可能となっています。

ただ、このPLフィルターの効果である反射の軽減ばかりは、さすがに撮影後のプロセスで修正することは困難なため、現在でも広く利用され、まあ、フィルター業界でも今でも広く売れる稼ぎ頭のようになっているわけです(正直、デジタル時代になって自分が使っているフィルターは、レンズ保護のためのプロテクターと、PLフィルターと、IR系などの可視光カットフィルターなど、デジタル後処理ではどうにもならないもののみです)。

風景写真を撮るにあたって、PLフィルターが効果を発揮するのは主に青空と水面です。PLフィルターは通常のフィルターと異なり、枠が回転するようになっていて、偏光版の方向を変えることが可能となっています。

まずは青空の例。一応、いずれもミラーレス一眼(Fujifilm X-T30)にPLフィルターをかけて撮った写真。こちらがPLフィルターの効果が最低な方向で撮った写真で、ほとんどフィルターなしと変わらないはず。

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そしてこちらが効果最高な方向で撮ったもの。空気中の水滴などの反射が抑えられて青空に深みが増し、雲の白さが際立ちます。そしてその効果の余波で、全体的に露光不足気味になっていた周囲の景色も適切に補正されます。

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今度は水面の例。こちらが効果最低状態。

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こちらは効果最高状態。手前の水面の反射が抑えられています。まあ、石の色を見ると全然違うのがわかると思いますが、上がf3.2-1/300s、下がf2.8-1/240sで撮影しているため、それを計算に入れるとさらに反射の差が大きいはず。

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水面の例が顕著ですが、PLフィルターが有効なのは一定の範囲の入射角の反射のみで、それを外れるとほとんど効果はありません。2番目の例では、水平線近くの海面での浅い角度の反射にはほとんど効果が見られません。

まあ、水面の反射ならこの「おでん」の作例の方がいいかもしれません。反射が取れればいいってものでもない、ということがわかるサンプルとなっていると思います。

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どう見ても上の写真の、PL効果最低の写真の方が美味そうです。

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PLフィルターとCPLフィルターの違いは?

で、現在PLフィルターとして売られているものはほとんどがCPLフィルターで、これは偏光板の後ろに位相差板を加え、直線偏光から円偏光に光を回す機能を持っています。まあ訳がわからないと思いますが、偏光板を通した光は、ハーフミラーを通すときにも偏光効果が働いてしまうため、オートフォーカス化された一眼レフではピント合わせにハーフミラーを使っている関係で、AF機構がうまく働かなくなるのです。

そこで、偏光板で反射光などを軽減させた後、位相差板で光を「散らし」て、ハーフミラーを問題なく使えるようにしたものがCPL(サーキュラーPL)フィルターです。通常のPLフィルターと異なり、裏表反対にすると機能しなくなるという、なかなか面白いフィルターです。

デジカメではCPLフィルターを使いましょうとメーカーは言っているのですが、実際はミラーを使わないミラーレス一眼ではPLフィルターで十分です(そしてずっと安い)。位相差板などという余計なものを入れずに済むので画質的にも幾分有利と思います。まあ、今となっては数少ない稼ぎ頭なので、より高いもの(CPL)を売りたいという気持ちはわかるのですが。

ちなみに上の作例も、Fujifilm X-T30(ミラーレス)にMARUMIのPLフィルター(MF用)を利用して撮影したものです。Amazonには普通のサイズのMF用PLフィルターは置いていないけど、ビックカメラには置いてあるのね(リンク先は58mmだがその他のサイズもちゃんとある)。ケンコーはすでに通常のラインナップからMF用のPLフィルターを外してしまっています。

Mavic mini用CPLフィルターを試してみる

そんなわけで、ドローンも当然ミラーレスなわけで、CPLなんて使う必要はないはずなのですが、なぜか売っているものはすべてCPLですね。今回実際に試したものはこちらの2製品です。

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面倒なので上のTaoricというやつをT、下のJunというやつをJと呼ぶことにします。まあどちらも怪しい中華パーツですが。

まずはカメラへの固定ですが、これはTが圧倒的に付けやすくて安定度も高いです。そしてJはなんか偏光板(偏光フィルム?)の質が悪いのか、なんか全体的に茶色っぽいです。

PLフィルターはカメラ用フィルターの中では珍しく賞味期限の厳しいフィルターで、大体5年程度で偏光板の質が経年劣化して、茶色くなっていくのですが、大体そんな色っぽい。

ではTの圧勝で良いか、となるとそんなこともなく、そもそも最初にTを買ったにもかかわらずJを追加購入した理由となる、致命的な欠点がTにはあるのです。それは、偏光板を回転できないという事! そもそも角度をいじれない偏光フィルターなんて見たことないよ! 偏光サングラスならともかく。

Tは偏光板が水平固定になっていて、これは全体的には青空効果シフトなわけですが、水平固定で青空に効果を得るには太陽の方向との相性の角度が限られ、また微妙な角度調整をしないと効果は限定的です(PLフィルターの枠についてる、△とかの角度マークを太陽に向けるのが原則)。

そんなことを言われても、空に浮かんで様々な方向を向きながら動画撮ってるドローンに、フックで引っかけただけのフィルターに、そんな細かい調整ができるわけがない。

何より、青空効果は今のご時世ならかなりのレベルまでデジタル後処理で補正可能です。

ということで、後処理では難しく、さらに角度固定でそこそこ使えるのは水面効果なのですが(水は常に下方向に水平に広がるので)、この場合に必要な角度設定は垂直であり、Tと真逆の設定なのです。わけがわからないよ。

ちなみに偏光サングラスは水面や路面、フロントガラスなどの反射を対象としていますが、主に水面と路面相手なら垂直固定で概ね対応可能です。フロントガラス反射は、車の形によっては効果は薄いでしょう。

Tがなぜ水平固定にしているのか、本当に謎です。

Mavic miniでのテスト結果

というわけで、Mavic miniに取り付けてテストしてみました。それぞれ左から、

  1. フィルターなし
  2. CPLフィルター(T)をつけた状態
  3. CPLフィルター(J)をつけて垂直に合わせた状態

となります。まずは強烈な水面反射のあるこの状態。

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正直なところ、どれも大差はなさそうです。

そして、そのほぼ反対側。

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一番右のJは、水面にも青空にもある程度効果があるように見えるけれども、全体としてあまりに茶色く変色してしまっていて色々台無し感があります。

この3枚の写真の中央下側を拡大してみるとこんな感じです。

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これも正直なところ、それほど劇的な効果はありません。そしてJは明らかにカラーバランスがおかしくなっています。

そもそも、PLフィルターの水面での反射は、水面からの角度が30度から40度程度の時に効果が最大になるとされており、それに対してMavic miniのカメラの画角は83度。その場合の垂直方向の画角は50度程度です。つまり下方向に有効なのはさらにその半分の25度程度。これでは、PLフィルターの有効な角度には届きません。

仮に水平線に画面上端を合わせるくらいにすると、画面下半分が25度から50度くらいになりますが、それでも効果が期待できるのは画面下半分が中心となります。

つまり、ここまで視線を下げてもやっと下半分に効果が期待できる程度と。完全に水平線がアングルの外に行くくらいの角度で下を向かないといけないようです。ということで、垂直方向固定で偏光フィルターを利用する場合、水面などに対する効果が強い角度はドローンの通常の利用形態からは狙いにくいアングルで、その割には品質の低い偏光板の弊害が大きい、という状態です。

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ということで、まあなぜMavic mini用のCPLフィルターがイマイチな効果しか得られなかったかをまとめると、このようになるでしょう。

  • そもそも偏光フィルターは、ファインダーを覗きながら角度を調整し、効果を確認しつつ使うのに適したフィルターであり、つけっぱなしで撮影することにそれほど適していない
  • 偏光フィルターを水平方向にフィルター角度を設定した場合、光源(この場合は太陽)との角度に割とシビアな条件があり、さまざまな方向を向きながら動画を撮影するドローンにはあまり向いていない
  • 水平設定の偏光フィルターで得られる青空効果は、割とデジタル後処理でなんとでもなる種の効果であり、後処理でどうにもならない水面反射の方を優先するべきだろう
  • しかし垂直設定の偏光フィルターが水面で効果を発揮するカメラアングル的な角度(PLフィルターの角度の意味ではない)は、通常ドローンが水平視線で狙う角度よりも深い角度であり、カメラアングルを水平線よりかなり下に向ける必要がある
  • いずれにせよあまり効果がないとなると、質の悪いPLフィルターによる画質低下(カラーバランスの悪化)の方が目立ってしまい、あまり好ましくない

ということで、少なくとも今回試した2枚に関しては、ほとんど意味がない(T)、もしくは逆効果(J)、という結論となりました。また、偏光板の原理に由来する性質の問題もあり、他のより良い製品を試せば全て解決するという事でもなさそうです。たとえうまく効果が出ても対象が限定的というのは否めないでしょう。

ちょっと残念ですね。

とはいえ、Jの方の機構に、まともな品質のフィルターがついた製品があれば、カメラアングルは限られますが、あるいは結構ちゃんと使えるかもしれません。

ということで、この辺りの製品どうでしょうかね、と再びヒトバシラーとなるべく、ポチってみました。中国からの直送なので遅くてたまらんのですが、もうしばらく待ってみます。

最低でもND4とCPL両方の効果って、かなり暗くなると思うけどどんなもんですかね。まああまり期待していないけれども(多分DJI mini2とMavic miniはこのあたり共通のパーツでいけるんですよね?)。

多分続く。

そもそもCPLフィルターでさえなかった!

この部分は2020年12月11日に追記です。

ふと気になって、これらのフィルターが本当にCPLフィルタかどうかを調べるため、PCのモニタの前で表裏を裏返しながら効果を見たのですが、表裏を裏返しても偏光効果がある! ということで、(T)も(J)もCPLフィルターじゃなくてただのPLフィルターだった、というどうでもいい事実が明らかになりました。いや、CPLである必要は全くないのでPLフィルター実に結構、なのですが、そもそも名前を間違えてるってひどくないか?

テスト方法ですが、実はPCの液晶画面から出てくる光は線偏光しています。なので、これをPLフィルターやCPLフィルターを回転させながら見ると、特定の角度ではほとんど光を通さなくなるのですが、CPLフィルターの場合はフィルターを表裏を逆にするとこの効果がなくなるのです(僅かに色味が変化する程度)。

CPLフィルターは本来手前側にある位相差板で線偏光を円偏光にしてしまうため、もしこの位相差板を対象側に向けると、そこで偏光が散らされてしまい、もう一度偏光面を通しても光を通さなくなるような角度はないのです。このような理由で、上のCPLフィルターの解説のところでも触れましたが、CPLフィルターは表裏を逆にすると全く効果がなくなる珍しいフィルターです。

そして、(T)も(J)もどちらも効果を失うことはありませんでした。

ということで、どちらもCPLを名乗りながらCPLではない、と。

そしてさらにすごいことに、(T)は偏光板が水平固定ですらなく、20度くらい傾いて固定されている、ということです。これ、もしかして適当に角度つけていないか? もしそうならば、そもそも偏光板とは何かをわかっていないっぽい。 (J)も、目盛りを水平に合わせて試してみると、やはり同様に20度くらいで傾いているので、目視で調整しないと正確に垂直向きにすることなどは不可能です。念のために、一応信頼しているKenkoのCircular PLフィルターで試してみるとやはり角度マークを垂直にするときちんと液晶モニタからの光を遮ります。

実に困ったものですね。

一方、こちらもやっと中国から届いたので同様に試してみました。

なお、こちらはよく見るとCPLではなくちゃんとPLと表記されています(すっぴんのPLはなく、ND4-PL, ND8-PL, ND16-PL, ND32-PLの4枚だが、まずND4-PLしか使わないだろう多分)。正しいです。

そして、こちらはマークを水平に合わせるとピタリと液晶画面からの光を遮ります。以前の2製品よりクオリティが高そう。Mavic mini2(DJI mini2ではないのか?)と書いてありますが初代Mavic miniにも問題なく取り付けられるようです。少なくともここで試した2種類よりは品質が高そうなので、後日テストします。

(2021年8月18日追記)DJI Air 2S用には結構いい偏光フィルターが見つかりましたが、Mavic mini用にはなさげですね。
xckb.hatenablog.com