まあ、至言だよな。
#その道の信者をキレさせる一言
— ひーくん。 (@hykun_mozuku_1) 2015年9月9日
実写化決定
ということで、そろそろ頭に上った血もだいぶ落ち着いてきたのでこの件に関して書こうかなぁ、と思うのです。「四月は君の嘘」の実写化決定の件ですよ。つらつらと考えたことを無秩序に書き殴ってみようかと思います。
さて…。いや、この件の発表直後のTwitter上の反応とかを見ていたのですが、当然ながらほとんどが否定的な反応の訳で、5%くらいは山崎賢人か広瀬すずが出るなら見る、的な肯定的反応がある…という感じですね。山崎賢人が9、広瀬すずが1くらいの比率のようですが。まあ、余程のことがなければ否定という感情のほうが強い感情である以上、否定意見の数が多いバイアスは当たり前ですが。
もちろん私も「ついにやっちまったな」的な第一印象ではあったのですが、そうは言っても、
- 実写化すると、実写版しか見ていないくせに作品を偉そうに語る「にわか」が出てくるのが気に食わない
という比較的よくある意見には全く賛成できないし(むしろそういうにわかが出てくるくらいいい作品になってくれるならなんと嬉しいことか)、
- 実写化するなら原作に忠実にするべき
という意見にも、あまり賛成できません。さらに、驚いたことに、
- かをりが金髪ではなく黒髪なのは解せない
のような意見もかなり見かけたのですが、まあ日本のアニメや漫画の髪の色ってのは単なる記号的側面が強いので、そこまでこだわるのはどうかと思います。とは言っても髪型くらいはないがしろにしない方がいいと思うけど。
というわけで、アニメにはアニメの、漫画には漫画の表現や文法があり、一方で実写には実写の表現や文法があります。いたずらに原作に忠実であることにこだわることは、必ずしも正しいことではありません。前に書いた通り、君嘘もアニメ化するにあたって結構多くの改変をしていますが、それらは作品の完成度をあげるためにとても重要な役目を果たしていると思うのです。
要は、実写化にせよアニメ化にせよ、異なるメディアに翻案する場合は、何らかの改変というものはあっていいし、むしろ適切な改変はあるべきだ、という事です。そしてメディアの性質の違いとしては、漫画とアニメとの境界線は比較的近いのだけれども、そのどちらからも実写というものは表現や文法の距離が離れているがゆえに、宿命的にこの「改変」の技が試されるわけです。
前回、君嘘について書いた時も引き合いに出しましたが、漫画原作とアニメが対立した例として(若いころに見たがゆえかも知れませんが)、あまりに鮮明に印象に残っているのが、押井守の「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」です。漫画原作のアニメ化で、「原作に忠実に」という観点からするとほぼ最悪な作品が、歴史的な傑作となっているという、稀有なアニメ映画であるといえるでしょう。最近の人は「魔法少女まどか☆マギカ 叛逆の物語」のオマージュ先として知っている人も多いかもしれませんね。
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公開から30年近く経って企画されたBlu-rayがいったん発売中止となった理由が、原作者との確執という噂がまことしやかにささやかれたのもむべなるかな、という作品です。原作者がNGを出せないように、脚本にケチをつけ続けて脚本家をクビにしたりで時間稼ぎをした上で、普通に「脚本書いてそれをもとに絵コンテを作る」ような時間はない、ということにしておけばさらに却下する時間もなくなるため、脚本と同時進行ということにして絵コンテから出してきたという、SHIROBAKOも真っ青な話も何やかやと(そういえばSHIROBAKOで瀬川さんがアニメの道に入るきっかけとなった作品という設定でしたが、SHIROBAKOスタッフは百も承知でそういう設定にしていると思います)。
押井「ビューティフル・ドリーマーの脚本の時は(原作者やプロデューサーが)チェックしないで投げてたから(笑)。僕が脚本に駄目出しして潰していて、時間が無くなってきて『なんでもいいから出してくれ』と言われたので。それを待っていた(笑)。『脚本家書く暇無いからコンテから入ります』と言ったんだけど、あれ脚本から出したら誰も許さない(笑)。…」
出典:日本アニメーション特集 月刊ニュータイプ Selections Animation Odyssey 2003 ~検証! 監督たちの劇場デビュー作~@野良犬の塒
なんと言っても、作品のストーリー構造をメタな観点から「夢」として描き、監督を象徴する人物がやりたい放題に夢を演出するのを最後に邪魔する「豚」として原作者をメタファーする(公式にそう言われているわけではないけれども、あの「©」を他にどう解釈すればいいというのか)ってのは、本当にひどい話であって、並の出来の作品では絶対に許されないことだと思います。
あれに比べたら、たかがキャストに合わせてキャラクターの性別を変えるとか、話の根幹のテーマを勝手に置き換えてしまうとか、単に恐ろしくつまらないとか、そんな程度の実写化の改変なんて屁でもありません。
「ビューティフル・ドリーマー」の酷さってのは、おそらくそこまで原作者が激怒するほどの「痛い点」を突いている、つまり、原作を台無しにしているように見えて、実は原作やそのアニメTVシリーズの構造ををメタレベルから忠実に描いているという点にあり、それを美しい映像と音楽、演出で1本の傑作映画に仕立てあげているというところが、押井守の只者でないところなんだと思います。そしてこれが映画として高く評価されたことが、さらに状況をややこしくしたかに見えるところさえも、またメタなドラマとして面白いのかも知れません。
要は、どんな無茶苦茶な改変をして企画段階で原作ファンなるものがいくら激怒しようが、仮に凄い映画が作れればそれは喜ばしいことであって、制作側は企画を通すのに原作モノが楽であるということを利用できてハッピー、出版社や映画会社はお金が入ってハッピー、原作者も収入や知名度が上がってハッピーで、Win-Win-Winですから全て平和に収まるわけです。そこまでいいものができれば原作ファンだって「これはこれ」で認めてくれる人は結構いるでしょう(まさに「ビューティフルドリーマー」のように)。
問題はそれが実現できていないことであって、原作に忠実かどうかは実はあんまり関係ありません。むしろ、メディアの違いを考えずにあらゆる改変は不可、という頑なな原作者が、実写作品としての完成度を大きく損なう可能性もあります。
最近の漫画原作の実写化でなかなか感心したのは、映画じゃないけど「アオイホノオ」とかあったりしますが、あれは本当に良かった。元々、現実のモデルがある自伝的漫画の実写映画化なので、その分楽な部分はかなりあったとは思うけれども、きちんと「漫画している」実写化になっていたし、なによりスタッフの愛や情熱が画面からにじみ出ていました。小道具などの細部へのこだわりも半端無かったからなぁ。なんかこのスタッフなら、SHIROBAKOとかも実写化できる気がする。
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藤原竜也主演の漫画原作実写化に外れなし伝説っていうのもあるようですが、何か原因があるのですかね? 彼のパーソナリティがいいのか、彼を選ぶスタッフに何か共通点があるのか。私はカイジとデスノートしか見ていないけれども、たしかになかなか面白いと思いました。私が大好きな漫画「僕だけがいない街」の実写映画企画も藤原竜也主演なので少しだけ期待しているけれども、ほぼストーリーの半分が子役となるストーリーで、どこまで神通力が効くのかどうかは興味あります。でも共演の有村架純もイメージ的にはいい線いってると思うし、この作品も藤原竜也伝説に仲間入りして欲しいものです(もうクランクアップしたようですね)。
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で、最初の「四月は君の嘘」の実写化に話は戻るのですが、やっぱりこちらには現在のところ不安しか感じられません。
アニメ版のイシグロキョウヘイ監督はいろんな場所で語っていますが、原作が非常に完成度の高い作品なので、自分の作家性を盛り込むことは避けて映像化していく、という方針でアニメを作ったとのことです。まさにその通りに、アニメでより原作の世界を表現するために必要な部分や、30分枠ABパートな構成にするために必要な部分をいくつか改変するにとどめ、迫力のある演奏シーンや豊かな感情表現、美しい美術、自然なCG処理などを組み込んだ上で、クオリティを途中で落とすどころか最後に向かって上昇していくかのように、全22話のアニメを作っています。
この22話の合計が約8時間。全ての物語を入れるのであれば、どんなに削っても映画前後編にして何とか、という感じの長さですが、前後編となるという情報は今のところありません。さらに演奏時間は曲目が決まっているのでそう縮んではくれません。なので思い切ったストーリーの取捨選択が必要なわけですが、そこにかなりのセンスが必要とされると思います。
さらに、キャストに合わせたのか、主人公たちの中学生設定が高校生設定になっていますが、恋愛ドラマにするのであれば、あのドラマをそのまま高校生に持って行ったら多分幼すぎてちょっと見てられない。しかも公生役の山崎賢人は立派な成人なので高校生設定でも若い感じだと思うんだけど、その辺りをどう改編するのかが結構不安です。なんで中学生にしなかったのかな。あらためて「リリィ・シュシュのすべて」とか見てると中学生映画全然いけるよね。やっぱり客を呼べるとされるキャストから企画が進んでいるのかな、と思わざるを得ない感じ。
演奏シーンに関しては映像マジックで何とかしてほしいと思うけれども、これもイシグロ監督がインタビューで面白いことを語っています。
アニメの登場人物は、声を当てている人、絵を描いている人と、完全に分業で作られていて、お客さんもそれを了解したうえで観ているんですよ。…(略)…ところが実写だと、能年(玲奈)ちゃんがかをり役でバイオリンを演奏したら、「能年ちゃんが演奏している」と思われてしまう。作中で描かれている人間の技術として定着させることが難しいんです。
出典:アニメスタイル006
そうかイシグロ監督は実写版宮園かをりを能年玲奈で妄想していたのか(そっちかよ)。このアニメスタイル006のイシグロ監督のロングインタビューは、完成度の高い原作をアニメというフォーマットにいかに落とし込もうとした時に何を考え、さらにもし実写でやるときはこういう困難があるんじゃないか的な話がいろいろ書かれていて面白いです。これだけきっちり語られているのだから、ここで指摘されている問題についてはどうやって実写版が解決するのかしないのか、ちょっと興味があります。非常に興味深く思ったのは、演奏シーンの実現に関しては、監督自ら技術的な面から製作工程の構築を考えていたというところ。こういう技術とセンスを持った人が本気出して取り組んだゆえにあのクオリティが出せたんだなぁ、と感心します。
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そんなことも踏まえて多分、怖いもの見たさ半分ですが、実写版「四月は君の嘘」、観にいきますよ(忙しくて行けない可能性もあるけど)。「これはこれでいいんじゃない?」となってくれることを夢見た上で、華麗なる手のひら返しをして褒めちぎるくらいの完成度になってくれないかなぁ、などと妄想しておくことにします。
まあ、その前に来週はこれがあるし。
http://www.fujitv.co.jp/anohana-drama/www.fujitv.co.jp
「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない」に関しては、私は格段の思い入れはないので、ナチュラルにポチッと録画予約してお手並み拝見モードですよ。以前「あなる」の名称が変更になるという噂が流れましたがどうもガセだったっぽいし(よく知らないけど予告映像だとちゃんと「あなる」になってる)、小日向文世は大好きだし、でも企画にそもそも無理があると思うけど大丈夫かな…程度の心配です(笑)。
ええ、杞憂で済みますよきっと。
(追記) 君嘘実写版、結局見てきましたよ。