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xckb的雑記帳

15年ほどWeb日記をつけ続けていたのですが2012年で一旦休止、1年半ほど休んで新天地でぼちぼちのんびりまた始めてみることにしました。

漫画原作映像化成功例としてのアニメ「四月は君の嘘」

さて、懲りずに(既に3月で放送終了したアニメですが)「四月は君の嘘」の話を書こうかと思います。5月は色々と君嘘関連イベントがあったのですが、何と言っても

  • 原作の単行本最終回が発売
  • 原作の単行本最終回限定版でオリジナルアニメDVDが発売
  • 四月は君の嘘スタッフトークイベント〜阿佐ヶ谷でみんなに会えてうれシード」が開催

という大イベントがあったわけで、盛りだくさんでした。原作最終巻の表紙は、やはりマガジンの表紙にも使われたこのかをりの絵ですね。素晴らしすぎる。

さらに、先日の聖地巡礼で行けなかった場所に、落ち穂拾いに行ってきたので、その写真なども取り混ぜながら書いていこうと思います(聖地巡礼記事の方にも追記しました)。

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なお、以下には多くのネタバレを含むため、原作未読またはアニメ未見の方にはお勧めしません。ご注意ください。



「僕は君と走りだす」と「僕は自分の足で走り始める」

私はアニメから入った組で、マガジンの連載は読んでいなかったため、漫画版の最終回は今回の単行本最終巻で読みました。もうアニメ版でラストは十分に暗記するくらい分かっていたのですが、漫画版も素晴らしいラストでしたね。

…と言いつつも、アニメと演出面で色々違った場所があるのですが、そのあたりはスタッフトークイベントで色々触れられていました。「四月は君の嘘」のアニメ化は原作に対するリスペクト度が非常に高く、あまり大きな原作の改変はない分、最終回の演出において比較的大きな違いを作ったことにはどのような意図があったのかについて、とても興味がありました。特に大きな違いとしては次の2点があります。

  • 漫画版ではホールにかをりの幻影が降り立って客席の前で演奏するが、アニメ版では公生とかをりがウユニ塩湖的な異世界に飛んで二人きりで演奏する
  • 漫画版では客席の観客や舞台裏の武士、絵見のセリフが入っているが、アニメ版では公生のモノローグ以外のセリフは全てカットされている

監督の話によると、アニメ版最終回の演出は該当する原作のネームなどがある状態で行ったので、決して原作と同時進行だったためや意思伝達不足でこの差が生じたわけではなく、意図的にアニメ化する際に改変した部分なのだそうです(もちろん原作者側の了解も取っているとのこと)。

第一の原因は尺の都合で、ショパンのバラード1番を全て流した上で原作の演出をそのまま映像化するとAパートに入りきらないという点。前半を演奏に、後半を手紙にと割り振る上では、中途半端なところで切るわけにはいかないという問題です。そういう状況になった時に何を切るべきか、ということを考えた時に、この物語の中心はやはり公生とかをりの物語だったということから、この演奏も公生とかをりの二人のものとして演出したいという選択をしたのだそうです。

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そこで触れられたのが、第1話ラストでのもう一つの大きな改変点です。私は恥ずかしながらこの改変に気がついていなかったのですが、

  • 漫画版では公生のモノローグが「14歳の春、僕は自分の足で走り始める」となっているが、アニメ版では「14歳の春、僕は君と走りだす」になっている

という改変点があったのです。おそらくこの部分を作った段階では原作最終回の細かい演出は決まっていなかったはずですが、期せずして物語の最初と最後に「この物語は公生とかをりの物語だ」という事をより強調する形の改変があったというのは、なかなか面白い演出だ思いました。漫画作品をアニメという異なったメディアに落としこむ際に必要となった改変を、一体どのように行うかという段階で、監督の思い入れが加わった、という感じですね。理由を聞いて、なるほどと納得しました。

そして、場所をあのウユニ塩湖的異世界にした理由は、物語後半でどんどん色設定の彩度が落ちたかをりの色を、もう一度思い切りカラフルにして締めくくりたかったという事のようです。これに関しては「カラフルにしてくれてありがとう」としか言いようがありません。そもそもかをりの彩度を落としていくという表現方法も、漫画にはないアニメならではのものですが、悲しいシーンながらひたすら明るく鮮やかな最後の演奏シーンは、まさにアニメという表現形態ならではの、ベストの形だったと思います。

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物語における選曲の意味と意図

それにしてもスタッフトークイベントで一番印象的だったのは講談社編集担当の江田さんでした(新川先生の担当は最初江田さんが一人で、その後山野さんが加わり二人体制となったようです)。この江田さん、イベントでは飲みまくってろれつの回っていないおじいちゃんだったのですが、なんと御年60歳の今年定年、現在講談社で唯一の生手塚治虫担当かつ生梶原一騎担当の経歴を持つ超ベテランな方とのこと。さらに「BECK」の担当の一人でもあったとか。

もうこれだけで、アニメ化スタッフだけではなく、そもそもの担当編集にも恵まれた作品だったんだなぁ、という感じではあるのですが、公式サイトでのインタビュー記事を見るとさらに色々な経歴が書いてあります。

中学校のころはブラスバンドでトランペットを吹いていて、高校生のときはオーケストラでヴァイオリンを3年間、合唱もやっていました。大学ではミュージカルサークルに入っていましたね。だから、音楽にずっと関わってきたんです。
www.kimiuso.jp

実はあのおじいちゃん、ヴァイオリニストだったのかよ!

いや、本当に幸せな原作だったんだなぁ、としか言いようがありません。スタッフトークイベントでもこの経歴を感じさせる、音楽へのこだわりを強く感じる発言が多くありました(ぱっと見、ろれつの回っていないおじいちゃんでしたが)。その一つが、演奏曲を選んだ理由についてです。

原作においては、曲に込める意図などを音楽監修の先生に説明した上で候補をもらい、それを参考に検討し、納得がいかなければそれを繰り返すという方法で多くの演奏曲が決められていったそうです。

たとえばガラコンで公生が一人で弾くことになる「愛の悲しみ」が選ばれる過程では、次のような流れがあったそうです。

  1. オリジナルはヴァイオリンとピアノの曲だが、ピアノソロ版もある曲が欲しい、と監修の先生に尋ねる
  2. クライスラー「愛の喜び」はどうでしょう?
  3. ちょっとメジャーすぎるしイメージと違うので別のものを。
  4. ではそれとペアになる「愛の悲しみ」はいかが?
  5. 採用!

こういう経緯で決まりながら、これが公生ママやかをりの名セリフにつながっていくという原作の演出は実に見事だなぁ、と思います。

実は当初、監督はアニメ第4話で公生とかをりがコンクールで演奏する曲を、原作の「序奏とロンド・カプリチオーソ」ではなく、同じサン・サーンスの別の曲にすることを考えていたそうなのですが、これを江田さんに話したところ、江田さん激怒。「最初の衝突でしたね」などとコメントされていました。結局監督も説明を聞いて納得して、「これしかない」と思ったとのことですが、みんな酔っ払っていたのか結局その理由は語られないままでした。

江田さんが「カプリチオーソ」は「自由気ままに」だから…と語りかけた部分から想像するに、演奏の自由度の高い曲を選ぶことで、公生が「自分の演奏」を表現しやすいように導きたかったのでは…などと妄想しますが、違うかもしれませんね。

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ちなみにかをりの最初の演奏が「クロイツェル」だったのは、この曲が「それまでピアノの添え物的扱いだったヴァイオリンが、ピアノが対等になった」曲であることから、かをりが「公生と対等になれたかな?」という思いを込めて選曲した、という設定だったそうです。

ヴァイオリンソナタ第9番 イ長調 作品47は、ベートーヴェンの1803年の作品。ヴァイオリニストのルドルフ・クロイツェルに捧げられたため、『クロイツェル』と呼ばれている。ベートーヴェン自身のつけた題は『ほとんど協奏曲のように、相競って演奏されるヴァイオリン助奏つきのピアノ・ソナタ』である。
(略)
ベートーヴェン以前の古典派のヴァイオリンソナタは、あくまでも「ヴァイオリン助奏つきのピアノソナタ」であり、ピアノが主である曲が多いが、この曲はベートーヴェン自身がつけた題の通り、ヴァイオリンとピアノが対等であることが特徴的である。技術的にも高度なテクニックが要求される。
ヴァイオリンソナタ第9番 (ベートーヴェン) - Wikipedia

そう思うと、震えながら公生に感想を聞くかをりの気持ちを想像して、さらにまた涙もろくなってしまいます。

とは言っても、全く原作と曲を変えることはまかりならん、と言ってるわけではなく、たとえば実際に椿と公生のシーンでのベートーヴェン「月光」が、ドビュッシー「月の光」に変更されている例とかがあります。どんな理由か、興味深いものです。

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ちなみに凪との連弾曲に「眠れる森の美女」を選んだ理由は「かをりは眠っただけで、100年後に目覚めるんだ」的な想いが込められているのだそうです。そんな曲で強烈なパンチを一発かをりに食らわせたのか公生(涙)。

そして最後の演奏曲がショパンのバラード1番になった理由は、ポーランドの11月蜂起で祖国を失ったと感じた若きショパンが書いた青臭い曲だから云々…と語りかけたところで呂律が回らなくなってなんだかわからなくなってました。

そう言えばフィギュアスケートの羽生くんが同じバラード1番で、君嘘最終回の直後に滑ったのは単なる偶然とのことです。「なんかかをりのために羽生くんが踊っているみたいで」と語ったのは誰だったかな? 宣伝Aさん?

監督はソトニコワの「ロンド・カプリチオーソ」のアレンジを例にとって、フィギュアアスケートが監督に色々なインスピレーションを与えてくれたということを話してましたね。多分時期的にもソチオリンピックのこれかな? 大胆なアレンジのされた演奏ですが、そう言われてみると、途中からドラムが入ってくるあたりとか、たとえば絵見の「木枯らし」への影響とかもたしかにありそう。


Adelina Sotnikova FS - YouTube

ともあれ、君嘘のバックステージでは、アニメのスタッフと原作のスタッフとの間で、アニメの内容に関して健全な議論が行われていた、ということがうかがえるいい話です。アニメに限らず、とてもそのようなコミュニケーションが行われているとは思えない漫画原作持ちの映像化が蔓延している中で、考えさせられるものがあります。

…まあ、そういう没交渉的なこともひたすら突き抜けた上で傑作・怪作を作ってしまうことが芸風のようになってしまっていた押井守みたいな人もいるので、一概に否定はできないんですけどね。そのせいでお蔵入りになっていたという噂のBDのBDも、30年の時を経てやっと出たことですし…。

この他にもスタッフトークイベントでは、フィナーレイベントの映像化はあります(円盤最終巻の付録とかがいいな)とか、お蔵入りになっていたプロダクションノートは前後2クール分をまとめてちゃんと出しますとか、一挙上映会をやって宣伝Aさんのピアノをそこで披露しますとか、色々な興味深い情報がありました。まだまだ楽しみです。

オリジナルDVD「 MOMENTS」

というわけで、原作最終巻特別版付録DVDの「MOMENTS」に関しても、少々書いておきましょう。なんか既に売り切れてプレミア価格になってしまっているようですが。

全体的な構成としては、円盤付録の漫画「四月は君の嘘 Coda」の一部と、スピンオフ小説「四月は君の嘘 6人のエチュード 」の武士編、絵見編の一部と、一部オリジナルのストーリーのアレンジ、という感じでしたかね。

基本的にはこういうスピンオフ的映像化は嬉しいし、よくできているとは思うんだけど、幾つか不満点もあったりします。

まず、公生の初演奏。これはあえて本編では音声化がされなかった、いわば「神格化された」演奏だったので、どうなるかと不安だったのですが、初々しさとキラキラ具合が絶妙で、よい音声化だったと思います(フィナーレイベントでも少し流れてましたよね)。

しかしその分、演奏の映像化としてはやはり、止め絵にしてほしくなかったなぁ、と思ってしまうのです。いや、止め絵は十分に幻想的だったし、何らかの演出意図があるのかなぁ、とか、絵としてはとてもいい、と思うんだけどやっぱり…。

あと、武士が反復練習で音を上げる部分は演奏が入っているのに、公生の鬼の反復練習では劇伴のみになってしまっているのは実に惜しい。

また、たぶんあのようなDVDを買うのはかなり濃い、本編を何度も繰り返し見ているファンが多いと思うので、たとえば過去の絵見の演奏での客席が、4話の公生とかをりの演奏からの使い回しだったりするのは一瞬で気がついてしまうと思います。

なんか、こんな書き方だと文句ばかり言っているようですが、本編の出来があれだけ神レベルだと、その分いろいろ言いたくなってしまうのですよ。本編終了後のおまけオリジナルDVDとしてその他の作品の同様のものと比較すれば、十二分によくできているのはわかっているのですが。

まあ、そもそもの話で言うと、私は本編で一番報われていないキャラは渡だと思っているので、どうせ「6人のエチュード」を映像化するなら渡編を作ってくれたらなぁ、と思っていたのです。あれも渡の携帯画像を通じて最終話に繋がるし、クレープ食べてる渡&かをりのツーショット写真を撮ったシーンの再現見てみたい! なんて思うわけです。とは言っても、さすがにちょっと無理あるかな。機会があればぜひ!


(2015年9月4日 追記)まさか本気で実写化されるとは思っていなかったのでタイトルを少し修正しました(「アニメ」の文字を追加)。実写版が映像化の成功例になれるとはとても思えません。困ったものです。

(2016年10月7日 追記)ちなみに実写映画版も観てきましたので感想を書きました。うーむ…。

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