9月29日から公開されている「劇場版 夏目友人帳 ~うつせみに結ぶ~」、都合3度観てきたけれどもとても良い。興行的にも結構ヒットしているようで嬉しい限り。
とは言っても、実はTVアニメ版「夏目友人帳」は自分がアニメから離れていた時期に始まったシリーズであり、既にTVだけでも6期もあるのでキャッチアップするのも大変で、今まで見たことがなかったのだ。しかしこの劇場版で、自分が以前からファンをさせていただいている切り絵作家の大橋忍さんが、劇中の切り絵を作成されているということを知り、急遽シーズン1をdアニメストアfor Prime Videoでキャッチアップして観にいったのだった。
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それだけで話についていけるかちょっと不安だったのだけれども、登場人物やストーリーの基本構成に関しては概ねそれでカバーできていて、特に問題なく楽しめたし、あれならTVシリーズ未見でもそれなりにちゃんと楽しめると思う。
それよりも何よりも吃驚したのが、忍さんの切り絵が、当初想定していた「単なる背景の小道具」程度に登場しているのではなく、ストーリーの本質に関わるモチーフとして使用されていたことだった。さらに、過去のたくさんの作品がアニメーションの中に登場していたことも、忍さんのファンとしては感激だった。
以前から個人的によく知ってる人の名前がアニメ映画のラストのスタッフリストで流れるというだけで、ヲタクの端くれとしては十二分に感慨深いのだけれども、さらにここまで作品の表現に深く関わっているとなると本当に嬉しい。
ということで実にめでたいので、うちにある忍さんの作品の中で、劇中に出てきた2枚を壁に飾って、ちょっと津村容莉枝さん宅の気分を味わってみる。自宅で聖地巡礼ができる的な感じでいいな。しばらくこの2作品はこの位置で飾っておこう。
こちらは「白蝋の灯火に告ぐる」(2017年)。夏目が最初に津村家に行ったときに、ファイルをめくりながら「展覧会で受賞した」と椋雄に説明される作品。初回に観たときにすぐにわかった。
「花筐の庭」(2016年)。忍さんのツイートでこの作品が出ていたことを2度目を観たあとに知ったのだが、恥ずかしいことにやっと3度目で確認できた。容莉枝さんの工房の壁に飾られていたのね(小さくて隠れ気味だったので確認が難しかったのだ)。
この作品の下の方にあるランタナの花は、津村家の玄関の両脇に植わっていた印象的な花だ。
津村家玄関脇の花はランタナ。大森総監督のコンテパートに突然描かれ、!?となり、遡って設定とコンテに反映、キッチンのテーブルの上にまで。侵略的外来種らしく、そこにあってはいけないけれども、その花はとても可憐。象徴的かなぁと思いつつ。ロケハンで朱夏の佐藤Pが撮っていた、というこぼれ話。
— 伊藤 秀樹 (@hi_sakura) 2018年10月27日
ちなみにうちにある忍さんの作品は以前こちらの記事にまとめておいた(先日新しい作品を2点追記した)。
劇場販売のグッズで忍さんのデザインのものは、こちらのつゆくさのキーホルダー。公開初日に手に入れることができなかったけれども、公式再販があったのでなんとか入手できた。良かった…。
これ、劇中の切り絵の構造のまま、とても美しく作られていて公式グッズの中でも出色の出来だと思う。素晴らしい。
この裏側の模様が、劇中に出てくるつゆくさの切り絵の裏側そのままで実によくできている。この空いた隙間からつゆくさの色が浮かび上がってくる様がよい。
このモデルとなった劇中のつゆくさの切り絵に関しては、監督と忍さんのツイートでも語られていたけれども、レイコさんの切り絵の周囲に配置されたつゆくさ(花言葉は「尊敬」「変わらぬ思い」「なつかしい関係」かな?)が理由だったとのこと。
大橋忍さんに、容莉枝さんが夏目くんに渡した切り絵はなぜ露草の柄だったのですか?と尋ねられた。レイコの切り絵の周りに露草がぐるりと切ってあったからです、と答えた。大橋さんのレイコのイメージは露草なのかな?と思って。儚くて、冷たく、美しく…。
— 伊藤 秀樹 (@hi_sakura) 2018年10月20日
先日 伊藤秀樹監督がツイートなされておりました「切り絵の枠」に「つゆくさ」を選んだ理由は「儚い」ということの他にもありまして つゆくさが持つ花言葉の各種と劇場版の公開時期から決めました pic.twitter.com/vJiXmU6FJC
— 切り絵作家 大橋 忍 (@ubonihs) 2018年10月23日
なんか、このやり取りからして、おそらく細かく打ち合わせしたわけでもないのに、阿吽の呼吸で忍さんの切り絵を使った素晴らしい演出が作り上げられている雰囲気が感じられて、すごいな、と思う。
というか、劇中の容莉枝さんが、忍さんが素で語ってもおかしくなさそうなことを切り絵に関して語っていたりするので、自分としては忍さんがCV島本須美さんでアニメ化されたような感じがして実に嬉しいのだ(自分の世代にとっては、島本須美さんといえばクラリスでありナウシカであり響子さんでありそして最近知ったけど「責任とってね」でもあったという、まさに生けるレジェンド的な方なので余計に感慨深かったりする)。
そういえば2度目に観たときに気がついたのだけれども、ホノカゲって最初は廃社の透かし彫り、すなわち隙間から向こう側が見える絵の中にいて、最終的に失われた思い出から描かれた切り絵(これも隙間から向こう側が見える)の中に帰っていったとも言えるのかな、と思って、実に切なくなった。「形や色の向こうに見える」ものは、容莉枝さんと消えていったホノカゲが積み重ねた日々なのかもしれない、と思う。
この映画、いろいろなモチーフが丁寧に積み重ねられていて素敵だと思う。たぶんまだ気がついていないことが色々ありそう。
そして第5週の入場特典は、劇中に出てくるレイコさんの切り絵柄のクリアファイル。まさか第5週でこんな絶対に行きたくなる入場特典が来るとは思わなかった。先述の通り、ちゃんと周りの枠につゆくさがデザインされているのが分かるな。これが入場特典なんて素晴らしすぎる。
容莉枝さんが「切り絵をやるきっかけとなった」作品らしさもきっちり表現された切り絵が、とても綺麗にクリアファイルとして仕上げられていて感激。
そういえば、夏目効果もあるかもしれないけれども、先日(10月23日)の東京新聞に忍さんの紹介記事が出てると聞いたので早速コンビニに走って買ってきたら、想像より遥かに大きく、2分の1面くらいの面積でしかもカラーで紹介されていて、しかも結構突っ込んだ内容の紹介がなされていてとても良記事だった。ありがたい。
[ 東京新聞様 掲載のおしらせ ]
— 切り絵作家 大橋 忍 (@ubonihs) 2018年10月22日
本日10月23日の東京新聞様「THE ARTIST」にてご紹介いただいております 丁寧に取材いただきまして 格好良くご紹介いただいております pic.twitter.com/hs2hCJFpPa
最後に、先日の個展のときの記事には書き忘れてしまったけれども、あの時部屋の入口にリンドウの花が飾られていたなぁ、などと。
映画のラストのリンドウ、花言葉は「あなたの悲しみに寄り添う」なのか。染みるなぁ…。
こちらの書籍に、今回の映画で使われた作品がいくつか収録されているとのこと。また、なにより劇中の容莉枝さんたちの作業の意味が解説されていて理解できると思うので、自分でも切ってみたいとか、色々と興味ある方はぜひ。
- 作者: 大橋忍
- 出版社/メーカー: エムディエヌコーポレーション
- 発売日: 2015/09/28
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