xckb的雑記帳

身の回りにあったことを雑多に語ります。

品川駅・鶴見駅間を含むJR定期における途中下車区間の謎

さて、先日から私を悩ませていた、JR東日本にまつわる不思議な現象にやっと解決がついたため、少しまとめてみたい。私は鶴見に引っ越してきて何年も経ち、ずっと品川駅・鶴見駅間を含む定期で通勤しているのだが、最近やっと、この定期はとても不思議な性質を持つということに気がついたのだ。まず、この区間界隈のJRの路線図を抜き出してみたい(実際には品川にはさらに山手線や東海道新幹線も走っているがここでは省略する)。問題の品川駅と鶴見駅をピンクで塗っておこう。

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(追記)あ、尻手駅から浜川崎駅方面に伸びる南武支線を書き忘れていた。申し訳ないけれども論旨に影響はないので、このままにしておく。

この区間を含む定期券で、追加料金無しで途中下車できる駅はどこだろう。常識的に考えて見ると、次の図で水色で塗った、大井町駅、大森駅、蒲田駅、川崎駅となるだろう。

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しかし実際は違うのだ。この定期券で途中下車できるのは、次の図の水色で塗られた駅なのである。つまり、上で挙げた4駅に加え、なぜか横須賀線の西大井駅、武蔵小杉駅、新川崎駅でも「途中下車」ができるのだ(特に東急東横線にも乗り換えできる武蔵小杉駅はデカい)。しかしそもそも、横須賀線は鶴見駅にホームなどは持っておらず、新川崎の次の駅はずっと先の横浜駅なのである。

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この、東海道線・京浜東北線経由の、「品川駅・横浜駅間」を含む定期券で、西大井、武蔵小杉、新川崎でも途中下車できるというのは、よくネットに情報が書かれているのだけれども、そちらのほうはまだ納得ができる(品川駅・横浜駅間では東海道線と横須賀線は同一視するという特例と解釈できる)。

たとえばこういうブログがあったりするけれども、よく読むとちょっと誤解があるようで、結論的にもちょっとおかしい。
pengin.hatenablog.jp

実際には、横浜駅を通過せずとも、たとえば品川駅・新子安駅間の定期でも、あるいは鶴見線に乗り換えて品川駅・国道駅間の定期でも、横浜線に乗り換えて品川駅・大口駅間の定期でも、全て西大井、武蔵小杉、新川崎駅で途中下車が可能なのだ。要は「品川駅・鶴見駅間」を含むかどうかが問題であって、横浜駅は何の関係もないのだ。

JRの営業規則第69条には、次のような記述がある。

(特定区間における旅客運賃・料金計算の営業キロ又は運賃計算キロ)
第69条
第67条の規定にかかわらず、次の各号に掲げる区間の普通旅客運賃・料金は、その旅客運賃・料金計算経路が当該各号末尾のかっこ内の両線路にまたがる場合を除いて、○印の経路の営業キロ(第9号については運賃計算キロ。ただし、岩国・櫛ヶ浜間相互発着の場合にあっては営業キロ)によって計算する。この場合、各号の区間内については、経路の指定を行わない。
…(略)…
4)品川以遠(田町又は大崎方面)の各駅と、鶴見以遠(新子安又は国道方面)の各駅との相互間
(西大井経由東海道本線 ○大井町経由東海道本線)
…(略)…
2 前項本文の規定は、同項第1号から第5号に規定する区間に対する定期旅客運賃の計算及び経路の指定について準用する
JR東日本:旅客営業規則>第2編 旅客営業 -第3章 旅客運賃・料金 -第1節 通則

そして第158条には次のように記されている。

(特定区間におけるう回乗車)
第158条
第69条の規定により発売した乗車券を所持する旅客は、同条第1項各号の規定の末尾に記載されたかっこ内の○印のない経路をう回して乗車することができる。
2 第69条第1項各号の区間内において2枚以上の普通乗車券を併用して乗車する旅客は、その券面に表示された経路にかかわらず、同号かっこ内の他方の経路を乗車することができる。ただし、他方の経路の乗車中においては、途中下車をすることができない。
JR東日本:旅客営業規則>第2編 旅客営業 -第4章 乗車券類の効力 -第2節 乗車券の効力

つまりこの2つを併せ読むと、品川駅・鶴見駅間の乗車券は、「大井町経由東海道本線」と「西大井経由東海道本線」のどちらでも乗ることが可能という風には読める。そして第69条2項の規定により、4番の区間である品川駅・鶴見駅間は、定期券においても同様の扱いがなされると読むことができる。

第158条の2項の規程は良く分からないが、おそらくたとえば「品川駅・蒲田駅間」と「蒲田駅・横浜駅間」の乗車券を持っている時にも、西大井経由で迂回しても良いが、途中下車は出来ない、という意味だろうか。今回は関係なさそうだ。

問題はこの「西大井経由東海道本線」とは何か、それは横須賀線とどう違うのか、ということだが、これは実は「品鶴線」と呼ばれる、東海道線の支線に横須賀線が乗り入れている、という形になっているらしい(品鶴線 - Wikipedia)。つまり、営業的には品川駅と鶴見駅を結んでいる形となっているが、単に鶴見駅にホームがないだけ、という扱いになるようだ(実際、横須賀線は線路だけは鶴見駅を通過している)。そのために、一見矛盾するようなおかしな途中下車可能区間が出来上がったようだ。

というわけで、じゃあそもそも横須賀線鶴見駅のホームは作らないの? と思ってしまうのだが、従来からJR東日本はあまり乗り気ではない模様。ただしそれに代わり、ここ数年相鉄・JR直通線の鶴見駅停車は、実現に向けての機運が高まりつつあるらしい。これが実現するなら地元民としてはかなり嬉しいので、ぜひ実現して欲しいなぁ(参考:http://www.city.yokohama.lg.jp/tsurumi/etc/kucho-room/kucho/kutyou26/20140901a.html)。

まあこの界隈、他にも新横浜で新幹線を乗降する際の「横浜市内」の区間になぜか川崎駅(当然横浜市じゃない)が入っているとか、面白いことが他にもあるみたいですね。まあこの川崎駅の件は、川崎駅を通らないと行けない南武線の尻手駅矢向駅が、半分横浜市をかすっている横浜市内にあるためのようだけれども。

(追記)尻手駅ではなく矢向駅のためだ、とご指摘頂きました。確認したところ、たしかにそのようなので修正します(記憶で書くもんじゃないですね)。

(謝辞:Facebookで第69条と第158条について教えていただいた方、どうもありがとうございました。調べて補完してまとめてみました)

(追記)川崎から南武線で武蔵小杉まで行くと厳密に言えばアウト、というご指摘もありましたが。多分その通りでしょうね(私はいつも品川から武蔵小杉、新川崎に行くことがほとんどなので問題ないけれども)。で、その場合横浜を経由して行くのはアウトかセーフか、という点が疑問なのですが、またしてもJR東日本のサイトによると、

次の各区間をご利用になる場合は[ ]内の太線区間のキロ数は含めないで計算します。同区間内では途中下車できません。
…(略)…
◆鶴見、新子安、東神奈川または川崎以遠(蒲田または尻手方面)、国道以遠(鶴見小野方面)もしくは大口以遠(菊名方面)の各駅と、新川崎、西大井または武蔵小杉以遠(武蔵中原または向河原方面)の各駅との相互間[鶴見~横浜、新子安~横浜、東神奈川~横浜]
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…(略)…
出典:運賃計算の特例:JR東日本

と書いてあるので、新川崎、武蔵小杉、西大井から鶴見駅に横浜経由で行く場合は、横浜・鶴見間は途中下車はできないけど料金にも含めない、というふうには読めます。が、営業規則でこれに対応する条文が発見できていないのと、定期券にこれが援用されるかどうかは発見できていないので、どなたか詳しい方教えていただけると幸いです。自分でも後で調べてみますけど。

まあそうは言っても普通にSuicaで改札を出てしまうと0円になってしまうんですけどね…(そもそもこの現象に気がついたのは、品川から武蔵溝ノ口まで行った時に、なんか異様にSuicaの引き落とし額が少ない!と思ったからなのです)。

(さらに追記)
上記の、横浜経由で新川崎→鶴見、もしくは鶴見→新川崎にこの定期券で移動して問題ないかという点ですが、予想通り問題ないという情報をいただきました。ありがとうございます。根拠は旅客営業取扱基準規程という社内通達のようです。JR側では積極的に公開しているわけではないが、それとは関係なく公開されているようです。

(特定の分岐区間に対する区間外乗車の取扱いの特例)
第149条 次の各号に掲げる各駅相互間発着(規則第157条第2項の規定により当該区間を乗車する場合を含む。) の乗車券を所持する旅客に対しては、当該各号の末尾かつこ内の区間については、途中下車をしない限り、別に旅客運賃を収受しないで、乗車券面の区間外乗車の取扱いをすることができる。
(1) 西日暮里以遠(田端方面)の各駅と三河島以遠(南千住方面)の各駅との相互間(日暮里・東京間)。ただし、定期乗車券にあつては、特別車両定期乗車券を除く定期乗車券に限るものとし、日暮里・上野間の新幹線以外の線区に限る。
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…(略)…
(4) 鶴見、新子安、東神奈川又は川崎以遠(蒲田又は尻手方面)、国道以遠(鶴見小野方面)若しくは大口以遠(菊名方面)の各駅と、新川崎、西大井又は武蔵小杉以遠(武蔵中原又は向河原方面)の各駅との相互間(鶴見・横浜間、新子安・横浜間、東神奈川・横浜間)
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…(略)…
出典:JR東日本旅客営業取扱基準規程

ここで今回の区間は(4)なのだが、これを素直に読めば、新川崎、鶴見間を横浜経由で移動したとしても、途中下車しない限り問題ないように見えます。で、これが定期券を含むかどうかですが、(1)の項目でわざわざ「定期乗車券」の例外に関して言及しているにもかかわらず、(4)では特に言及されていない以上、(4)も定期券を含むと考えるのが自然ですね。というわけで、品川・鶴見駅間の定期券で、新川崎→横浜→鶴見という不思議な経路で移動することにはJR的にも問題はないようです。

それにしてもなかなか深いですね、鶴見駅界隈。

(2019年12月3日追記) 相鉄直通線の羽沢横浜国大駅が開業したことで、この界隈の運賃体系にさらなるカオスが。ということで、そちらの問題もまとめてみました。

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