(後半ネタバレを含むので、未見の方でもし今後見る気のある方は、ネタバレ警告のところでパスしてください)
昨年11月から今年3月まで半年間放映していたアニメ「四月は君の嘘」は、クラシック音楽を題材にした作品でした。クラシック音楽って基本的に、同じ曲を様々な人が演奏してそれを鑑賞するジャンルですよね。
「四月は君の嘘」も、その題材がクラシック音楽であるというだけではなく、本当に何度も何度も何度も作品として制作されたであろう王道のドラマ構造をベースに、個性的で素晴らしく魅力のある作品となっているという点では、とても「クラシックな」ドラマであると言えるのかもしれません。
昨年見たアニメをまとめた時にこの作品の前半をベスト1にしたところでも書いたんだけど、この作品はクラシック音楽を題材としつつも、クラシック音楽というジャンルにこだわることなく、より一般的な「音楽」の魅力と演奏者たちの情熱を描いていて、とても惹きつけられます。そして後半では、いよいよ物語の前半から度々示唆されてきた悲しい真実に向かって、物語は進んでいきます。
監督のイシグロキョウヘイ氏ははこれが初監督作品らしいですが、まさに初監督作品らしい情熱に溢れた作品となっていると思います(こういうのがあるから、「初」の商業作品ってジャンル問わず好きなんですよね)。
さらに原作まで、4年に渡る連載をアニメの最終回とほとんどタイミングを合わせて終了するように計算して話数を割り振るとか、なおかつアニメ側でも原作の最終回まできちんと描くとか、企画段階から色々な意味で気合いが入ってます。以前一度アニメ化の企画があった時は、物語の最後まで描けないという理由でポシャったとかいう話からも、アニメ版も一つの完結した作品とすることに対する、ただならぬ拘りがうかがえます。
前半で感動した、(TVアニメに限定しなくても)前代未聞級の演奏シーンも、後半で失速するどころか、最終回に向かってさらにクオリティを高めていきました。特に、何と言っても最後の演奏シーンは鳥肌ものの出来でしたし、18話のピアノ連弾シーンも素晴らしすぎました。そして、ヴァイオリンの演奏をあそこまで表現しながら、さらに「弓の毛が切れる部分まで表現したかった」(Blu-ray第2巻のスタッフオーディオコメンタリーより)が心残りって、なんという貪欲さ。いや、指でクルッと巻いてプツン、まで表現できたらさらにカッコよすぎるのは確かではあるのですが…。
(Blu-ray 2巻収録の第2話のスタッフオーディオコメンタリーは、まさにオーディオコメンタリーはかくあるべしという濃い内容でした。今後の円盤でもああいうオーディオコメンタリーを是非お願いします。いや、声優さんのオーディオコメンタリーももちろん面白いんだけど)
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こういう作り手たちのただならぬ拘りと愛情をもって映像化してもらえるとは、なんて幸せな原作でしょう。
完結したこの作品に関してこのブログで何か語ろう…と最終回を見た直後から思っていたのですが、ふと考えると、もう作品自体を語る事自体が余計な気がして、まさに「言葉は蛇足だ」状態と思ってしまい、遅々として筆が進まなかったのでありました。
なので作品に関して語ることはやめにして、ここでは魅力的なキャラクターたちにメッセージ的に語るのがよいかな、と思い至ったので、そういう切り口でいってみましょう。
(ここから大幅なネタバレ入りますので、未見の方はストップをお勧めします)
宮園かをり
まずは全てのキーパーソンの宮園さん。前半ではあれほどカラフルに色づいていた色設定も後半ではすっかり彩度を落とし、手足が細くなるだけではなくキービジュアルの輪郭線まで細くなって、色々な意味で今にも消え去りそうでしたが、それでも誰よりも太く人生を駆け抜けた彼女には最大のカーテンコールを贈りたいと思います。
リスクの高い延命手術を受ける決心をした末にそのまま術中死するほど、貪欲で激しい生き方をしたドラマのヒロイン、と考えてみると、なかなか珍しい存在ですよね(別れのシーンが作りにくい術中死は、通常のドラマでは作りにくいという事情もあると思いますが)。おそらく、手術しなければもう少し長く生きられたと思うんだけれども、それでもイチかバチかでもう少しの時間が欲しかったんだろうな。
そんな彼女が最初についた例の「嘘」ですが、おそらく最初は(自分の状態故に)公生とそれほど深く関わるつもりはなかったんだろうね。でも、実際に関わっているうちにどんどん自分が抑えられなくなったんだろうし、それは誰にも責められない。渡くんも笑って許してくれるよ。
最終話を見た後で第1話からもう一度見直すと、かをり視点からもう一つの物語を体験できて、さらにまた涙もろくなります。R.I.P.
有馬公生
本当に彼はあんぽんたんの果報者です。
(おそらくそれを考えることから逃げていたにせよ)かをりが人生最後の演奏となるかもしれない舞台に、普通なら相方としてあり得ないコンディションの自分を指名した意味をさっさと気が付けと。
でも、2話の終演後とか、11話の河原とか、18話の病院の屋上とかでも、かをりが一番欲しかった言葉を、毎回無自覚ながらもきちんと声に出して言っているあたり、かをりが感情を抑えられなくなったのも分かるよな。21話の雪の中のアレはもう、具体的な言葉が必要ない最高の告白シーンだと言ってもいいだろうし。
意識せずにそれをできる彼は、意外に本人自覚なしの恋愛の天才なのかもしれない。…と考えると、結構はた迷惑な奴だな(笑)。
澤部椿
色々と自分に嘘をつき続けた結果として、なかなか面倒くさい人になってしまっていた彼女でしたが、最終的にはあの「ひっちょ!」で公生を救い、そして(公生の中の)かをりを救った、功績の高い人物。なので彼女は背後霊にでもなんでもなる資格はあるし、かをりもそう望んでいることでしょう。赤い人や黄色い人を含めて強力なライバルが多そうなので、まあ頑張れ。
その陰には、この物語で報われない登場人物ナンバー2の斉藤先輩がいるわけだけれども、まあ彼もリアルイケメン人生が待っているはずなので頑張って欲しい。
渡亮太
というわけで、この物語で報われていない登場人物ナンバーワンの渡くん。全てを悟った上で、自分をダシに使った女子と親友の間を取り持ってあげるなど、まさに真のイケメンキャラ。しかもあれだけ病院にも通って、絶対本気だったよな。まあ、彼には彼でこれを糧にしたリア充人生が待っているだろうから、報われて欲しい。
ところで、最終回での彼の携帯(なぜかボタン配置がおかしい)に写ってたかをりとのツーショット写真って、スピンオフ小説「6人のエチュード」の渡編のエピソードで撮られた写真だよね。この渡編もなかなかいいストーリーなので、ぜひスピンオフ映像作品出てほしいなぁ。(絶版扱いなのか、書籍版はプレミア価格で古本が売られているようですが、Kindle版なら普通に買えます)

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ちなみに原作最終巻の11巻のおまけDVDは子供時代のストーリーのようですが、こちらにも期待しています。

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柏木奈緒
渡くんとともにこの物語における賢者の双璧的な位置を占める柏木さん。煩悩の数だけBLを愛する彼女にも実に幸せになってほしいものです。正直、俺はこの物語の女性陣の中で柏木が一番好きです。
相座武士
やあエレン・イェーガー君。髪型が凄いからまた何かに変身するのかと思ったよ。まあ、天才はえてして秀才のできることを続けられなかったりするものだからね。心臓を捧げて頑張れ。妹さんによろしくな。
井川絵見
赤い人。俺が柏木さんの次にお気に入りの女子はツンデレ美人の彼女です。もう、8話の演奏シーンだけで毎回ごはん3杯はいけます。いつか椿が彼女に嫉妬するシーンがとっても見たいところです。
相座凪
黄色い人。物語終盤に登場した新キャラの割には、影の薄くなったかをりからトリックスターの役目を引き継ぎ、物語を引っ掻き回してくれました。赤い人の次は彼女に椿が嫉妬するシーンがとっても見たいところです(あ、これは18話で一瞬だけどもうあったか)。
有馬早希
私も仮にも人の親になってしまった今日このごろ、うまくいっていない親子関係を描くドラマはなかなか辛いのです。
もしかすると、このドラマにおける過去の記憶というのは、かをりの回想シーンと絵見の回想シーンにおけるかをりの服の色の違いに見られるように、それぞれのキャラクターの視点から見た過去の思い出として、改変されたイメージなのかもしれません。
そう考えると、あの公生ママのひどい回想イメージも、公生のさまざまな心の問題が凝縮されたものであって、実際はもう少し違ったんじゃないかな、と思いたいところです。
かをり両親
そんなわけで、私としてはかをり両親には色々と感情移入してしまいます。娘の一見無謀な最後の人生の選択にも、その意思を汲みとって肯定してあげたわけだよね。それはとても凄いことだと思うのです。
何か、これからも公生と色んな事で関わることになりそうだよね。特にパパ不在気味の彼の人生には、あれくらい濃ゆいパパ役の人がいてもいいと思う。
そんなわけで…
かをりが18話で語った「夢がかなったから、もういいって思ってたのに。諦めてたのに」という言葉の中の「夢」は、本当に物語の最初の4話で叶っていたことでしょう。それで十分でなかったからこそその後のドラマがあったわけだし、つまりは自分をごまかしていた言葉なんだろうな。
そしてその本当の「夢」が叶ったのか叶わなかったのかは人の解釈によるんだろうけれども…、やっぱり叶ったんだと思いたい。
本当にこの物語は何度見ても色々考えさせられます。
最終回のまさに最後に出てくるタイトルのロゴ、文字の欠けていた部分が色のついた形で埋められます。公生の人生から欠け落ちた部分を、かをりは拾って大切に育てて、公生に返してくれたんだよね。はじめて完全な形になったロゴに、かをりの公生への想いの深さを感じるのです。
そしてそれは公生にとっても同様であって、ままならない運命に直面したかをりから欠け落ちた部分を、もう一度埋めてあげたのではないでしょうか。
「四月は君の嘘」は、凄まじい作り手の情熱と原作への愛情が、非常に高いレベルの映像、音楽、演出として結実した傑作だと想います。フィナーレイベントにもライブビューイングで参加しましたが、始まった時点ではお世辞にもあまり注目を浴びていたとは言えなかった作品が、あれだけ多くの人に愛される作品になったということは、本当に素晴らしいことだと想います。最高の半年間をありがとうございました。
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