xckb的雑記帳

身の回りにあったことを雑多に語ります。

漫画原作の映像化成功例としてのNetflix実写ドラマ版「僕だけがいない街」("Erased")

ふと、うちのApple TVでNetflixを開いたら、「僕だけがいない街」の文字とともに雛月加代っぽいアイコンが…。ん、何これ…と思ったら、何とNetflixオリジナルの実写ドラマとして新たに三部けい先生の傑作漫画「僕だけがいない街」を映像化したらしい。そもそもどういう作品だか知らない人のために、今回のNetflix版のPVを紹介しておこうか。

www.youtube.com

こんな感じで、タイムリープ物としては、自分の中では「シュタインズ・ゲート」「魔法少女まどか☆マギカ」「サクラダリセット」あたりと並んで超お気に入りの作品だったりするわけだ。

今までTVアニメ化と実写映画化がされている。このうち実写映画の方は実は観ていないのだけど、まあなんというかあまり良い評判は聞かず(主演・藤原竜也の神通力も万能ではなかったということか…)、一方でアニメ版はまあ悪くはないと思うのだけれども、特に終盤に色々ともやもやするものがあった自分としては、新しい映像化と聞いてもまあ見るのが怖いわけだ。ちなみに当時書いたアニメ版の感想はこちらね。

xckb.hatenablog.com

さらに自分にとっては、数限りない漫画の実写化で悲しい思いをしているだけに、漫画作品の実写化がそもそも大抵外れであるという先入観もあるわけで。特に自分が好きなタイプのジャンルはね。

まあそれでも、せっかくの「僕街」だから…と、おっかなびっくり見はじめてみたわけなのだけれども…これがなんと…、

とても素晴らしいんだよ!

上で紹介したブログ記事で、アニメ版の残念だったところとして、特に残念だった点を3箇所と、普通に残念だった点を7箇所挙げたのだけれども、特に残念だった3箇所のうち2箇所はこのNetflix版では全く問題にならず、もう1箇所も概ね解決していると言ってよい。そして普通に残念だった方の7箇所は、Netflix版では全く問題になっていない、もしくは気にならない。

いやもちろんこの実写版も完璧ではない。しかし一原作ファンとしては、そのような些細な欠点は、嬉しかった部分が十二分にカバーしてくれていると感じている。

そうだ、これこそが俺の見たかった映像化された「僕だけがいない街」だったのだ。

ということで、以前書いて気に入ってるこの記事のタイトルをもう一回再利用して、ほとんどネタバレ無しの感想ブログを書いてみたいと思ったわけだ。

xckb.hatenablog.com

以前書いたけど、自分は映像化の際に何でもかんでも原作通りにやればいいとは思ってない。メディアが変わることに伴う必要な改変というものはどうしてもあるし、全体の尺が決まっていればある程度のストーリーの取捨選択は必要だ。そして何なら自分の才能を賭けて、原作者を足蹴にしたような自分の作品を作ってもいい。たとえば押井守みたいに。

xckb.hatenablog.com

問題は面白いかどうかであり、また原作のファンであればそれを見てファンとして嬉しいかどうかだ。

そして先程も書いたとおり、このNetflix版「僕だけがいない街」はとても面白いし、原作ファンとしてはこのような映像化を見ることができて本当に嬉しいと言うしかない仕上がりだ。

なぜそのような映像化ができたかという事を考えながら、この記事のインタビューを読むと、つまり「Netflixで作ったからだ」という結論になりそうなところがまた興味深い。

spice.eplus.jp

そもそも自分は漫画作品の実写化になぜ嫌な思いをすることが多かったかを考えてみるに、次のような要因が挙げられるだろう。

  • キャストありきで、そこに適当に商業的にヒットしてる漫画作品をあてがうかのような安易な企画
  • どう考えても無茶な尺でも強引に映像化
  • その尺を縮めるためにたとえば恋愛系以外の部分を大胆カットするなどの乱暴な単純化
  • 作中に散見される原作への理解不足
  • 原作と真逆のラストをあえてやってみるとかの、誰も求めてない過剰なアレンジ
  • 金もセンスも両方ないのにVFX系が無謀なジャンルの原作を選択
  • よりにもよって、日本人が日本語で会話してるのが著しく不自然な原作を選択して、日本人が日本語で喋る形で製作
  • などなど…

こういう不満を抱えつつ上のインタビューを読むと、まさにこれらの問題の大部分に対する答えは、ネットという新しい映像の供給形式の中にあったのではないかと感じてしまうのだ。

「あなたの作品を向こう10年間、全世界に対して最高のクオリティで我々は配信し続ける。そのために今は大変ですが、これだけの仕様で撮ってください」と。
出典:“実写化ドラマ”の制作にNetflixが最適な理由とは?『僕だけがいない街』下山天監督が日本との製作姿勢の違いを明かす | SPICE - エンタメ特化型情報メディア スパイス

映画館というマスな箱を一定期間占有して作品を見せるのでも、電波に乗せて一気に大量の視聴者に対して一定時間映像を流すのでもなく、10年間、だれか興味を持ってくれるかも知れない人の手元に、いつでも見られる形で映像作品を並べておくというネット配信というシステムは、ここまで違う制作スタイルを作品に対して及ぼすのか、と考えさせられる。

ある程度マニアックでも世界中のこういうものが響く人たちに対して、しっかり支持されるモノを作る。世界配信だからといってハリウッド的なものとか、無国籍なものを作るということではなくて、堂々と強靭なジャパンオリジナルなものを作ると輸出作品にできるんだ
出典:“実写化ドラマ”の制作にNetflixが最適な理由とは?『僕だけがいない街』下山天監督が日本との製作姿勢の違いを明かす | SPICE - エンタメ特化型情報メディア スパイス

作品を作り、提供していく事に関する志が、今までのドラマや商業映画と全く違う。国内のマスを目指すのではなく、全世界に散らばる「こういう作品が好き」な人々を引き込めばいいというスタイルが商業的に成立するような環境を、ネット配信の持つ広大なロングテールは提供できる。世界に目を向けるだけではなく、世界をメインのターゲットと捉えることで、クリエイターはより自由になれるのかもしれない。

たとえばTwitterで、"erased netflix"とか検索すると、どうやら日本語圏以外でも結構好評のようだ。けものフレンズの某監督も、中国方面に興味をひかれるのもいいけれども、実はこっちの方が面白そうじゃないかい?

まあ、Netflixが万能だって言いたいわけじゃなくて、たとえば先日のデスノート騒ぎのように、ちょいと間違えると炎上する場合もあるわけだけれども、まあそのあたりはNetflixも同時に色々学んでいるのだろう。少なくともこの「僕だけがいない街」ではとてもうまくやっている。

実写でやるからには、そんな三部先生の想いや、観客に悟や加代(編注:柿原りんか演じる悟のクラスメイト)が感じた北海道の寒さなども含めて体感してもらうことが大事だし、やはりこれは苫小牧で撮らないと世界に出せるものにならないと思ったんです。
出典:“実写化ドラマ”の制作にNetflixが最適な理由とは?『僕だけがいない街』下山天監督が日本との製作姿勢の違いを明かす | SPICE - エンタメ特化型情報メディア スパイス

そうだろうそうだろう。おそらく予算をケチったり、あるいはスター出演者のスケジュールなどの事情があったのか知らないけど、この物語のもう一つの登場人物であるとも言っていいだろう苫小牧の街を、あっさり関東からアクセスの良い場所にすげ替えた前の実写映画版は、その時点でアレ確定なんだよ。

Netflix版では、北海道の冬空にたなびく、工場からのエッジの立った煙、雛月の住む北海道仕様の公営住宅、夜の北海道の雪道の風景など、を、明度を抑えた絵作りで美しく表現しているところが実に素晴らしい。まさにこれがジャパンオリジナルだ。

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煙突と煙ではこのシーンが一番俺にはグッときたな。彼方に見える工場の煙突、整然と、しかし人間の生活を感じさせるように並ぶ公営住宅、冷たい空気、そしてアンダー気味の露出の絵に、そっと添えられるタイトル。今の日本のTVドラマよりは洋ドラや映画のセンスにたしかに近い気がする。

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この思い切り寄った煙突のシーンもとても良い。

日本の芸能界的な縛りも一切なくて。日本で数字持ってる有名アイドルなどを起用しても、今度は海外の人はそれを観るかという話になってきますし、「とにかくキャラクターにあった実力のある人を選んでくれ」という感じで。
出典:“実写化ドラマ”の制作にNetflixが最適な理由とは?『僕だけがいない街』下山天監督が日本との製作姿勢の違いを明かす | SPICE - エンタメ特化型情報メディア スパイス

特に痛快なのがこれだよな。世界中をマーケットにしているからこそこういう事が言える。キャストありきで適当な原作を持ってくる系の企画で今まで何度悲しい思いをしたことか。「とにかくキャラクターにあった実力のある人を選んでくれ」って、なんだよそれ神かよ。たとえば山崎某氏が悪いわけではないが、彼になんか適当に持ってきた原作の主人公をさせたり、ジャニーズのだれそれが全然合ってない漫画主人公の役で出てくるような映画やドラマはもうたくさんなんだよ。

そしてこのようにして選ばれた「とにかくキャラクターにあった実力のある人」であるキャストたちがとても魅力的だ。どのキャラクターも映画版ほどのスターを使っているわけではないけれども、とても自然に役に入っていると思う。主人公の藤沼悟を演じる古川雄輝がとても自然に藤沼悟していた事に加え、アニメ版では終盤何のことやらわからない人になってた愛梨を演じる優希美青も、終盤まで一貫して片桐愛梨だった。藤沼佐知子を演じる黒谷友香、若い頃と年取った頃のどちらも素敵だ。そして彼女の役には、俺も男の子の親として実にグッとくるものがある。

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子役たちも凄いよな。小学生時代の藤沼悟を演じる内川蓮生は、大人の記憶を持ちながら子供である雰囲気をきっちりと表現できていたと思う。この、雛月加代の虐待現場に居合わせた時の表情の動きとか特に凄いと思った。

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そしてなんと言っても、その雛月加代役の柿原りんかが素晴らしい。最初に出てきた時の幸薄そうな雰囲気、そして悟に虐待現場を見つかった後に、母親に促されて「転んだ」と悟に嘘をつく悲しい表情などを強烈に印象づけながら…。

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少しずつ笑顔を出せるようになってきて、そして…という過程を実に素敵に演じてくれていた。そういえばアニメ版で悠木碧が演じた雛月加代は、アニメ版で最も評価できる点の一つではある。しかし、このNetflix版の雛月加代はそんな芸達者ぶりはないが、本当に雛月加代がいたらこんなふうな影のある女の子だったんだろうな、という自然さと、それが悟との出会いで変わっていく過程が、とても素晴らしい。

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地上波だと1話何分にしなきゃいけないだとか、CMを何分いれなきゃいけない、とかありますけど。今回は1話を見てもらうためのテンポを作るためのカッティングはしましたけど、以降の話数は大事なものは切らないで、できるだけ原作の時間軸を正確に見せたつもりです。
出典:“実写化ドラマ”の制作にNetflixが最適な理由とは?『僕だけがいない街』下山天監督が日本との製作姿勢の違いを明かす | SPICE - エンタメ特化型情報メディア スパイス

そう、気がついてた。よく見ると一話一話、微妙に長さが違うんだよね。枠にぴったり合わせるために泣く泣くカットするとか、場面を短くする必要がない。気持ちよく引きを作れればそれで良い。テレビではできない、まさにネット配信が故の自由度だ。最近のアニメでも「Planetarian」とかの配信専用作品は各話の尺がこの「僕街」以上にフリーダムだったりしたけど、こういう融通がきくのも、もしかしたら意外にクオリティに効いてくる要素なのかも知れない。

このように、「僕だけがいない街Netflix版は、従来のドラマ制作と比べて多くの自由さを得ているわけだが、その自由さの大半を、真摯に原作に向かい合うことに費やした感が強いことが、原作ファンとしては最高に嬉しいことだと思う。素晴らしい原作を基に、本来の舞台で、キャラクターに合ったキャストで、美しい映像として作品を作り上げる。そういうあまりに基本に忠実なところに、この自由さを使ったのではないかと思える点が、このドラマに対して自分がここまで好意的になる理由なんじゃないかな、と思う。そして、こういう形で漫画作品の実写作品化ができるような場所があるのならば、もはや漫画作品の実写化を毛嫌いする理由もなくなってくるのかもしれない。それはとても嬉しいことだ。

そういえば、アニメ版のエンディングの、さユり「それは小さな光のように」も実に良かったけれども、この実写ドラマ版のエンディング曲である、彼女 IN THE DISPLAY「アカネ」もとてもいいと思う。毎話、最後にこの「ドーン!」の引きからこの曲が始まるスタイル、なんか洋ドラ的ではまってしまった。

アカネ

アカネ

  • 彼女 IN THE DISPLAY
  • ロック
  • ¥250

GOLD EXPERIENCE REQUIEM

GOLD EXPERIENCE REQUIEM

ということで、Netflix実写ドラマ版「僕だけがいない街」、お勧めだ。実写映画版やアニメ版になんか残念な思いを感じていた人であれば、これだけのために入会してもいいだろう。どうせ1ヶ月は無料だし(笑)。

www.netflix.com

そうそう、ついでに紹介しておこうかな。もしかすると「僕だけがいない街」の原作が8巻で終わりだと思っている方もいるかもしれないけれども、実は外伝が9巻として今年発売されていて、しかもこれまた素晴らしい出来なのでお勧めだ。未読の方は是非。

xckb.hatenablog.com

そして三部けい先生の新作「夢で見たあの子のために」の単行本1巻が先日ついに発売になっている。またしても謎が謎を呼ぶ展開で目が離せないぞ。「僕だけがいない街」が好きだった人は是非読んでみよう。

というわけで、素敵な作品をありがとう。

(2017年12月23日追記)
Wikipedia読んで気がついたのだが、このドラマの下山天監督って、俺が好きなTVドラマシリーズの中でもかなり上位に入るだろう「あしたの、喜多善男 ~世界一不運な男の、奇跡の11日間~」(主演:小日向文世)のチーフ監督だったのか。なんか、この「僕だけがいない街」を見ながら何故か思い出していたのが「あしたの、喜多善男」だったので、気がついた時はああ、まさに! という感じだった。

というわけで、このドラマ「あしたの、喜多善男」も超おすすめなので、機会があればぜひ見ていただきたい。ちなみに俺は円盤まで持ってる。あの小日向文世が主演って時点で最高なんだが、またこのドラマでの吉高由里子が本当に最高なのだ。Netflixさん、せっかくだからこちらも配信してほしいぞ(配信しているサービスは見つからなかった)。

そして小曽根真による大人な雰囲気の劇伴も素晴らしすぎて、こちらも持ってる。いやほんとに面白いので、みんなぜひ見て!

あしたの、喜多善男〜世界一不運な男の、奇跡の11日間〜 オリジナル・サウンドトラック

あしたの、喜多善男〜世界一不運な男の、奇跡の11日間〜 オリジナル・サウンドトラック

ちなみにこっちはiTunesにも入ってるからな!

マイ・トゥモロウ(メイン・テーマ)

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  • 小曽根 真
  • ジャズ
  • ¥250