xckb的雑記帳

身の回りにあったことを雑多に語ります。

サクラダリセット第23話:パブリックな社会の問題の解決と、残されるプライベートな心の問題

というわけで、誰も見てないけど今一番見るべきアニメ(私見)の「サクラダリセット」についてもう一本書いていくぞ。こちらの続き。

xckb.hatenablog.com

今回は、先週の入院で残念ながらリアタイ視聴できなかった第23話「BOY, GIRL and the STORY of SAGRADA 4/5」についてだ。

いわゆるラスボスとの決戦回であるにもかかわらず、ひたすら密度の濃い会話劇であったところがあくまでこの「サクラダリセット」らしい。そしてこの回の会話は、21話のような焦燥感を孕む会話ではないものの、あくまで淡々と、しかし強烈に感情を揺さぶる言葉の戦いを見せてくれたという点が最高だったな。

……しかも、なんか丸く収まりつつある? と思ったところで、衝撃のラストが全部持っていったところが、また「サクラダリセット」らしくもある。おいおい次はもう最終回かよ。

そんな、19話からの連続神回記録5回目にしてベストな神回、そんな一瞬も目が離せないサクラダリセット第23話の感想などを書いていきたい。

誘拐する役割、逃げる役割、そして残る役割

それにしても序盤の津島先生カッコいいぞ。よく考えれば、最初のループで彼が浦地の側にまわった理由だって、もちろん非能力者としての自分の感情もあるのだけれども、ケイの事を考えてそうしたという部分も多々あるからな(残念ながら、ケイだけはもう死ぬまで能力者であり続けるしかないので、その親切心はケイにとっては的はずれなわけだけれども)。

ケイのことを長く見ていて理解していて、その上でケイの覚悟を正しく浦地に伝えることができた津島先生、実にいい大人として行動していて泣かせる。

津島「そいつはあなたを刺せなくても、自分なら刺せる」
浦地「…」
津島「もし俺が車を止めたなら浅井ケイ自身を人質に取るでしょう。そんな手順、割愛したほうがいいにきまっている。そいつは本当に、暴力的なことが嫌いなんです。きっと、大嫌いなんです。嫌いなことをするのは誰だって疲れる。大人は、子供の面倒を見るものですよ。どちらかが疲れなければならないなら、まずは大人から疲れるべきです」

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(出典:「サクラダリセット」第23話)

(このあたりの聖地巡礼情報はこちら

そしてカラオケボックスから逃げる宇川・村瀬・岡絵里・坂上4人の面々、ここでの会話がいちいち面白すぎる。特に宇川・村瀬コンビは今まで絡みがなかっただけに実に新鮮で面白い。宇川の言う正義の味方ってのは、(まあまあ妥当ではあるものの)基本的に自分の正義の味方だからな。

宇川「私は善人じゃなくて正義の味方だからね」
村瀬「どう違うの」
宇川「殴られても抵抗しないのが善人で、殴られたら殴り返すのが正義の味方だ」
村瀬「そういう自覚的な正義の味方ってどうなの?」
宇川「正義の味方は、自分が正義の味方だと知っているものだよ」

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(出典:「サクラダリセット」第23話)

宇川と岡絵里も基本的に初対面だったかな? ここで岡絵里がケイを見習って、能力の連携技で危機に対処するところなんて、前回のあの上から目線のケイにバッチリ籠絡された感があるし、すっかり「チーム浅井ケイ」のメンバーっぽくなっているよな。そして宇川が「そうだろうね」とぼそっと呟くところがたまらなく良い。

宇川「ナイスだよ坂上、岡絵理」
岡絵理「できれば自分で能力を使いたいけどねー、誰も目を合わせてくれないんだ」
宇川「そうだろうね」

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(出典:「サクラダリセット」第23話)

そしてチートすぎる宇川の能力発動。宇川・村瀬コンビの漫才、最高すぎる。今回はここだけ突然のアクションシーンだ。なにげに「ケケケケ」状態の岡絵里と顔面蒼白な坂上のコンビも面白いけどね。

宇川「可愛い声だねー」
村瀬「こういうことするなら先に言っておきなさいよー!!!」

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(出典:「サクラダリセット」第23話)

(このあたりの聖地巡礼情報はこちら

そしてチーム浅井ケイでただ一人、逃走せずにカラオケボックスに残る春埼美空。索引さんは状況をかなり誤解している模様。まだケイと春埼の関係を全くわかっていないんだろうな。ケイは仲間を見捨てないし、ましてや春埼を見捨てるなんて絶対にありえない。そしてケイは一番信頼している人間を、自分以外で一番重要な役目に投入するはず。

つまり春埼美空がケイの指示で居残っているこのカラオケボックスこそ、ケイが浦地と直接対峙している車内の次に重要な場所なのだ、ということを理解するべきだったのだろう。まあ理解していても手の打ちようはなかったと思うが。

索引「あなたは彼を信頼しすぎている。浅井くんはあなたを切り捨てた」
春埼「意味がわかりません」
索引「あなたを一人だけここに残したというのは、そういうことでしょう。あなたが管理局に捕まるということを知っていたはずよ」
春埼「捕まっても問題ありません。それに私は捕まりません」

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(出典:「サクラダリセット」第23話)

そして春埼美空の背後に、加賀谷が現れる。

カルネアデスの板と、加賀谷の物語

ケイと浦地の会話。カルネアデスの板を話題に出すケイ。ケイはなんとか二人とも生き残る結末を探したいという。当然のごとくその意見を真っ向から否定する浦地にケイは、「似た話」として、浦地の両親を「石」にした加賀谷の話を突然出す。すごい会話劇だ。

ケイ「二人とも生き残るのが、一番いい結末です」
浦地「その解答は、問題の本質から目をそらせているよ。前提を理解していない愚かな答えだ」
ケイ「前提ですか」
浦地「そう、できないことはできない。カルネアデスの板ではどちらか一方が死ぬしかない。それが絶対的な前提だよ。それくらいのことは分かるだろう」
ケイ「僕はもう一つ、似た話を知っています」

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(出典:「サクラダリセット」第23話)

ここで、意表を突かれた表情をありありと浮かべて不快感を示す浦地や、ケイが語りかける間、車の上を通り過ぎる木漏れ日を映していくという映画的な表現の演出とか、とにかく無茶苦茶良い。大好きだ。

ケイ「どうです。世界のために一人の男性の時間を止めた、彼のしたことは正しいと思いますか?」
浦地「 悪質な冗談だ。加賀谷のしたことは正しかったし、そもそも彼は何も選んでなどいない。全て管理局に強制されたことだ」
ケイ「では加賀谷さんが、管理局の決定に逆らったとして、罪悪感から浦地さんの父親の時間を止められなかったとして、あなたはそれを悪だと思いますか?」

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(出典:「サクラダリセット」第23話)

ケイの近くにいる能力者たちの組み合わせで、加賀谷、そして浦地の両親を救うことができる可能性のある案を提示され(猫方面の倫理的問題や、超愛猫家の野ノ尾さんをどう説得するかという問題はこの際置いておいて)、声を荒げる浦地、そして直ちに反論するケイ。互いに人生の価値観をぶつけ合う、平行線の会話劇。これは凄いぞ。1話、2話のケイからは考えられない熱さだ。

浦地「私の両親と加賀谷が救われたとして、だからどうしたというんだ。能力が一度、何かを救ったところでそんなことは何も証明しない。例外的に上手くいった場合を取り上げても、能力を肯定する理由にはならない!」
ケイ「なら、一体どれだけ救えば、能力は許されるのですか?どれだけの人間を救えるものに価値があるというんですか」

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(出典:「サクラダリセット」第23話)

結局、浦地とケイのどちらが正しいという問題じゃなくて、価値観の問題なんだよね。我々の身近な例としては、たとえばテクノロジーへの態度。圧倒的な力を生み出すテクノロジーに対して、存在自体を否定してしまおうという姿勢と、問題が発生した時は人間とテクノロジーの力でより良い方法を作って乗り越えられるという姿勢。

多分、ケイの思う方法で社会を構築しても、何らかの巨大な問題はいつか起こるし、一方で浦地の方法に従っても、人間はいつか必ず能力を見つけだす。もともと能力を封じる力に能力を使っているわけだからね。構造的に無理がある。

そういう価値観の問題であることを浦地が認めた瞬間、ケイの勝ちは確定する。「実は僕が説得していたのは、あなたではないんです」というセリフを聞いた途端、浦地じゃないけど「やられた」と思ったわ。

浦地「浅井くん、君の言っているいることは、あるいはとても正しいのかもしれない。でも、君がどれほど正しくても、私の心は動かないんだ。まだ私は、能力が悪だと思っている。それがどうしようもない事実なんだよ。…やっぱりだ。やっぱり君に、私は説得できない」
ケイ「はい、知っていました。ごめんなさい浦地さん。実は僕が説得していたのは、あなたではないんです」

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(出典:「サクラダリセット」第23話)

和解、そして公的な問題の結末

そして加賀谷を説得する春埼。そうか、ケイは浦地の持つ最も強い武器を狙ったのだな。索引さんは嘘さえつかなければ何の力にもならないが、加賀谷はこの状況ではあまりに最強だ。そして、浦地も「私の両親と加賀谷が救われたとして、だからどうしたというんだ」とはっきりと認めた通り、ケイのアイデアは、加賀谷を長年呪縛していた罪悪感やそれから発生する様々な葛藤から解放してくれるのだ。

春埼「大切なのは、浦地正宗よりもあなたなのだと、ケイは判断しました。あなたは選択しなければなりません。救いたい人を救えるのならば、あなたはその人を救うべきです。かつての問題を修正できるのならば、あなたはそれを修正すべきです。加賀谷さん、あなたはどちらを選択しますか? 」

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(出典:「サクラダリセット」第23話)

春埼がケイへの絶対的な信頼を独白する。春埼は今回、時間的な問題でリセットが使えない状況で、リセットの能力を使わずに加賀谷を説得した。ケイと春埼との関係は、やはり変わりつつあるのだ。

春埼独白(ケイは間違えない。頭が良いからではなくて、優秀だからではなくて、何も忘れないケイは、自分自身の正しさを決して失うことはない。だから間違えない)

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(出典:「サクラダリセット」第23話)


そしてついに、加賀谷がケイの側につくと語る。相麻菫が願い続けても、どうにもたどり着けなかった場所に、ついにたどり着いたのだ(ここの劇伴が何とも素晴らしいなぁ。早くサウンドトラックを出してほしいぞ、本当に)。

加賀谷「浅井ケイ、今回の件に関しては、あなたを支持します」

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(出典:「サクラダリセット」第23話)

それにしても、能力の無くなった咲良田で、春埼の家に行く前に、ケイはただの公務員になった浦地に会いに行って、2時間も話し込んでいたんだな。まさかケイがここまでウェットな方法を使うとは。おそらく、ケイも春埼とともに、自分の感情を取り戻してきた故なのだろう。能力がなくなった世界でも、浦地が加賀谷に対して絶対的な信用を置いていたことを知り、そこに攻略できるポイントが有ると悟ったわけだ。なるほど。

浦地「君は私とは全く違うな」

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(出典:「サクラダリセット」第23話)

ああ、第21話で、相麻菫が非常階段から身を投げる瞬間に浦地に語った言葉は、そういう意味だったのね。浦地は自分の手帳を盗んで見たのだと疑っていたが、そうではなかったと。

菫「ケイは…あなたには思いつかないようなことをしたわ」

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(出典:「サクラダリセット」第21話)

それにしても、浦地も自分自身の能力でケイの時間を適当に巻き戻せればきっと勝てただろうに…と思うのだけれども、最初のループでもケイの仲間たちを泳がせていたことといい、彼は彼で、強敵と戦う時の何らかの美学を持っていた…ということなのかな。相麻菫の口車に乗って、3日間で全てのトラブルを収めてしまったことも、「やれるもんならやってみろ」と、分かってやっていたのかもしれないしね。まあ、浦地が3日どころか2日ですべてを終わらせたということは、ケイがリセットを使うであろうギリギリの時間の前にリセットを無効化してしまう方が勝率が高いと計算した結果かもしれないけれども(この件に関してはこっちの方がありそう)。

そしてケイに(前回カラオケボックスでやったはずの)握手は嫌いだと語り、その代わりに自分が「ケイが奪った」と誤解していた手帳を手渡す。これ以上もない和解のシーンだし、浦地の笑顔はこれ以上なく爽やかだ。

浦地「本当はポケットにものを入れるのも、嫌いなんだよ」

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(出典:「サクラダリセット」第23話)

これで、多分咲良田の能力をめぐる「公的な」問題は決着を迎えた。そしてあと最終回の1話、もう丸く収まって大丈夫なのでは、と思っていたら、全くそうではなかった…。

残されたプライベートな問題、相麻菫の再構築された物語

ケイの指示通り、咲良田の外に出ていた相麻菫は、正午ごろに電車で咲良田に戻ってくる。咲良田の外では、能力が失われた咲良田での相麻菫同様、ケイに恋する普通の女の子になっているようだ(原理が同じだからな)。電車の座席で笑顔でケイとのデートの計画を練っている姿はとても幸せそうだ。しかしトンネルを越え、電車が咲良田に入ると、相麻菫に異変が起こる。

菫「明日ケイはあいているかなぁ…。どこに誘おう? 学園祭の振替休日だから、ゆっくりできるところがいいな」

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(出典:「サクラダリセット」第23話)

相麻菫に流れ込む、膨大な記憶。そしてそこには、スワンプマンの相麻菫が直接知らないはずの景色が含まれている。あの2年前の、橋から飛んでいく赤い傘、そして橋から落下する視点からの、目の前に迫る川の岩。死の瞬間。

菫「何、これ…。やめて! やめて!!!!」

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(出典:「サクラダリセット」第23話)

これは何らかの未来視でかつて相麻菫が見たものなのか、それともスワンプマンから復活した、この世界における唯一のイレギュラーな存在である相麻菫が、一度咲良田の外に出て再度戻ってきた時に、何らかの異常な記憶の書き換えが起こってしまったのか。

菫「…ごめんなさい。私ははじめから間違えていた。ごめんなさいケイ。何もかもが、あなたのためでさえなかった。ごめんなさい…。」

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(出典:「サクラダリセット」第23話)

そして予告編が不穏すぎる…。

菫「…浅井ケイをちょうだい…」

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(出典:「サクラダリセット」第24話予告)

パブリックな社会の問題が片付いて残ったのは、プライベートな心の問題だった、ということか。ああ、頼むから相麻菫を幸せにしてやってくれよ…。このままじゃ彼女があまりに浮かばれないだろう。そしていよいよ最終回は明後日か…。

いよいよ次回は最終回

そういえばしばらく前に紹介した、このGigazineの記事を思い出した。

gigazine.net

ここで監督は、次のように語っていたな。

たとえば、ある短編はシナリオの決定稿まで出しましたが、後半、7巻あたりの話数を1つ増やすために、落とすことにしました。それぐらい丁寧にと考えました。最後まで見てもらってからの話にはなりますが、これこそが「サクラダリセット」の良さをこの尺の中で出す方法だろうと。みんなの中で「後半の尺がなくて全然思った通りにいかなかったということだけは避けよう」という気持ちでした。

出典:原作の持つ良さを2クールの中で最大限生かせるよう制作に挑んだ「サクラダリセット」川面真也監督インタビュー - GIGAZINE

つまり、7巻に相当する「BOY, GIRL and the STORY of SAGRADA」の物語は、もともと4話構成の予定だったが、やはり短編を1つ削ってでももう1話必要ということだったんだろうな。もし今までの流れでもう1話少なくすると、たとえば浦地との対決をAパートに、そして相麻菫の問題をBパートに…とかは避けたかったということなんだろう。

その思惑もあってか、今回1話まるごと使って描かれた、浦地との対決と和解は実に見ごたえのある物語だった。そして最終回で語られるであろう、相麻菫の物語を刮目して待つこととするか。

ちなみに、この判断で削られた短編「月の砂を採りに行った少年の話」は、こんな形で不思議な「映像化」がなされた模様。オリジナル収録の原作4巻は既読だけれども、こちらはこちらで、これから「読んで」みたいと思う。

しかしこの調子だと、この第19話〜第24話の神回シリーズがちょうど円盤第4巻に入るわけか。凄いぞこりゃ。まあ、悲しいかな誰も見てないので、全然売れないと思うけどな…(もちろん俺は予約済みだぞ)。

というわけで、そろそろ原作最終巻、読み始めてもいい頃合いかな?


最終回が楽しみすぎるぞ。

こちらに続く。

xckb.hatenablog.com

(追記)聖地巡礼に関する記事を書きました。

xckb.hatenablog.com

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